特定社会保険労務士とは? 特定がつくと何が違う?

2007年、社会保険労務士は「特定社会保険労務士」が認められました。ただ、この「特定社会保険労務士」という言葉、聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。
以前は、セクハラや賃金不払い、解雇等に関する従業員と雇用主との間でトラブルが起こった場合に、当事者間で解決するか弁護士に依頼して裁判に持ち込むしか方法が無かったのですが、その場合、時間と資金が必要となり、とても大変でした。しかし、話し合いによって解決を図れるように、ADR(裁判外紛争解決手続)という制度が設けられ、当事者間に学識経験者等の第三者が入り、解決方法を「あっせん」できるようになり、これで双方が合意できれば解決、合意できなければ「労働審判」等の裁判手続きに移行して行くことになるのですが、特定社会保険労務士とは、個別労働紛争解決手続において、代理人として紛争の解決に関わることのできる資格になります。

今回は、この「特定社会保険労務士」と「社会保険労務士」の違いについて、わかりやすくご紹介していきたいと思います。

特定社会保険労務士ができる業務とは

特定社会保険労務士と社会保険労務士の業務の違いは?

社会保険労務士が行うことができる業務は、社会保険労務士法第2条第1項第1号から第3号に規定され、大別して次の3つです。

社会保険労務士が行う業務
(1)労働及び社会保険に関する法令に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、異議申立書、再審査請求書その他の書類を作成すること。つまり「書類の作成」です。

(2)申請書等について、その提出に関する手続を代わって行うこと。すなわち「手続の代行」です。

(3)労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、異議申立て、再審査請求その他の厚生労働省令で定める事項について、又はこれらの申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述について代理すること。
これを「事務代理」といい、相談・指導などのコンサルティング業務がこれにあたります。

(1)、(2)は社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、業として行ってはならないとされています。ただし昭和55年8月31日現在行政書士名簿に登録し、行政書士会に入会している行政書士にはこれらの業務を行うことができます。

この3つが社会保険労務士の主な業務になりますが、特定社会保険労務士は、これらに加えて「紛争解決手続代理業務」を行うことができます。

紛争解決手続代理業務とは?

紛争解決手続代理業務
(1)個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続の代理を行うこと(紛争価額が60万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)

(2)個別労働関係紛争解決促進法に基づき都道府県労働局が行うあっせんの手続の代理を行うこと

(3)男女雇用機会均等法、育児・介護休業法及びパートタイム労働法に基づき都道府県労働局が行う調停の手続の代理を行うこと

(4)個別労働関係紛争について都道府県労働委員会が行うあっせんの手続の代理を行うこと
※これら代理業務には、依頼者の紛争の相手方との和解のための交渉及び和解契約の締結の代理を含みます。

つまり特定社会保険労務士は、冒頭に記載したように、不当解雇、賃金不払い、セクハラ・パワハラ、いじめなどの個別労働関係紛争について、裁判をせず「話し合い」によって、トラブルを解決するという「あっせん手続」ができるのです。

「あっせん」により、争うことなく和解による解決に向けての話し合いが行われるため、時間と費用がかかる裁判よりも比較的利用しやすい制度です。したがって社会保険労務士と特定社会保険労務士の違いは、「紛争解決手続代理業務」が行えるか否かの違いになります。

特定社会保険労務士となる者

特定社会保険労務士となるには社会保険労務士登録を受けている者が 厚生労働大臣が定める司法研修(特別研修)を修了し、紛争解決手続代理業務試験に合格しなければなりません。社会保険労務士名簿に紛争解決手続代理業務試験に合格した旨の付記を受けると、特定社会保険労務士の業務を行うことができます。

特定社会保険労務士を取り巻く現状と今後

特定社会保険労務士は、紛争解決代理業務に従事することのできる社会保険労務士であり、資格としての位置付けはあくまで業務拡張に伴う付記資格です。ただし、付記に際し厚生労働大臣が定める研修を経て紛争解決手続代理業務試験の合格が求められる為、労働法規に精通した社会保険労務士と言えます。ただ紛争解決のニーズが高まる一方で、代理業務自体は一部の実務家に集中しているのが現状です。社会保険労務士の中には、年金業務に特化した実務家や、給与計算、社会保険・労働保険事務処理業務に基盤を築いている実務家も多く、あえて資格取得を行わない者も多く紛争自体を敬遠する者もいて、隣接士業の認定司法書士ほど取得率が上がっていません。しかし最近労使間トラブルの未然防止とリスクマネジメントとに備え、 企業内で労務管理に専業従事する勤務社会保険労務士に資格取得を奨励する企業も増えています。

今後は更なる司法的な側面から労使間トラブルの解決、未然防止に尽力することで社会に貢献することが求められます。