公認会計士が活躍するフィールドはどんどん広がっています。
会計のみならず近年はFASを含めてファイナンスの経験を積んでいる会計士も多くなっており、そっち方面へキャリアを進める方も出てくるようになっています。
その中でもPEファンドに興味があるというケースは増えていますが、公認会計士としての下地が活かせるケースも多いことから、プラスアルファでの評価ポイントも多くあり、転職自体は不可能ではありません。
ただ、ファイナンスのスキルに加えて、ファンドに対する理解や経営に関する知見、全体を俯瞰して見る能力、コミュニケーションスキルなど幅広い能力が要求されることから転職のハードルは高く、採用に至る公認会計士はそれほど多くないのが実情です。
また、VCに興味があるという会計士の方もいらっしゃいますが、VCの場合はPEファンドと異なり、アーリーステージのベンチャーへの投資が多くなることから財務会計よりかはビジネスモデルを見る能力や当該業界に対する深い知見があるかどうかなど、また違ったものが見られる傾向にあります。
どちらにせよ転職のハードルは高いものの興味があるという会計士の方は多いので、ここでは公認会計士がPEファンドやVCへ転職する際の注意点やキャリアについて簡単に見ていきたいと思います。
※PEファンドやVCなどへの転職において、キャピタリスト職への転職とバックオフィス職への転職の2パターンが大きく考えられますが、キャピタリスト職・投資関連職への転職を前提として記載させていただきます。
目次
PEファンドとVCでは投資対象が違う
まず、ざっくりとPEファンドとVCの違いを記載しておきたいと思いますが、両社とも上場していない企業の株式を取得し、それを売却して収益を得るという点では同じように見えるのですが、投資する対象となる企業が異なるため、そうなるとやらなければならないこと、求められるスキルも大きく変わってきます。
ベンチャーキャピタル(VC)
大雑把な記載になりますが、VCは主にスタートアップベンチャーなどの創業間もない会社へ投資し、株式を取得し、IPOやM&Aを通じて利益を得るスタイルです。
創業間もない会社への投資の場合、財務会計というよりかはビジネスを見る知見や起業経験などの方が重要視されます。将来的なリターンはもとより、過去の分析に関しては意味をそれほどなさないケースもあり、財務会計バックボーンよりかは別のものが重視されることが多いです。
所属するファンドが投資対象とする業界に詳しいとか、あるいはそうでなくとも特定の何かの業界にすごく詳しいなど、そういった強みが求められる傾向にあり、会計財務の能力はあくまで付加価値的な側面として見られる傾向にあるかなと感じます。
とはいえ財務会計を下地に持つキャピタリストも近年増えており、意味が無いわけではありません。
企業価値を向上していくためにどのように支援していくかという視点も重要になり、ベンチャーキャピタルに支援を求めるケースにおいてはハンズオンによる事業支援を目的としたケースもあるため、管理部門の整備含めて必要となるケースはあります。所属するファンドによってはしっかりとした投資先企業のハンズオン支援も行います(ハンズオン支援といいつつやらないところも多いですが)。
IPOをゴールに設定することも多いことから、IPO支援に合わせた社内体制の構築に関する業務も発生します。
こうした一連の業務は監査法人や会計ファームに在籍している公認会計士であれば関わるケースもあるかと思いますが、投資する入口から最終的な出口までの戦略を考える必要があり、監査法人や会計ファームで培ったスキルは一定度評価される傾向にはあるため、その部分が評価されないわけではありません。そこだけでは弱いということにはなりますので、そこの強みを活かせるように準備しておきましょう。
PEファンドへ転職した際に公認会計士のスキルが役立つ場面と転職するのに必要なこと
ここも概要はザックリ記載しますが、PEファンドは、未上場のある程度事業が成熟した会社の部門を買収し、価値向上させた後転売するスタイルです。
そうなるとVCとは違い財務モデルの作成スキルなどが求められますので、DD、バリュエーション含めて会計士の知見が活かせる場面はそれなりにあります。
財務面のスキル重視だと、基本的に投資銀行出身者が強く、後はFASからの転職というケースもありますが、監査法人の経験しかない方が転職されるケースは少ないです。
監査法人から転職するのであれば20代のうちに転職する必要があるでしょう。
FASでの業務経験も評価対象にはなりますが、監査法人+FASの経験を積んだ時の年齢とスキルセット・経験値次第と言えるかと思います。監査法人とFAS両方で経験を積んでいるうちに年齢が結構上になってしまっているケースもあるため、厳しくなることがありますのでファンドに興味がある場合は若手のうちから情報収集しておくべきでしょう。
ただ、会計士としての会計監査スキルの基盤は意外と役立つものであり、転職需要はあります。投資銀行出身者ばかりではありませんので転職することは可能です。
※新卒で戦略コンサルなどのケースではファイナンス弱くても転職できますが、監査法人からだとそのときの採用基準(ポテンシャル採用やってるかなど)にもよるため、とりあえずエージェントに聞いた方が早いかなと思います。
一般的な会計士がPEファンドへ転職しようとする場合、上記で記載した通り、会計スキルは評価されるものの、それはそこまで高い評価を受けるわけではありませんので、前提としてPEファンドの仕組みに対する理解やファイナンスに対する理解、経営全般に対する理解等が必要となります。
先程記載したように、近年の人手不足問題からポテンシャルでの採用を検討するファンドも多いので、20代若手の会計士等でPEファンド等への転職に興味のある方は一度情報収集してみても良いかと思います。
とりあえず、会計士が転職する、という面と金融業界の転職という2面での情報収集が必要になるので、マイナビ会計士とコトラあたりから情報収集しておくとよいでしょう。
転職においては公認会計士以外のプロフェッショナルもライバルになる
公認会計士として培ってきたスキルは間違いなく評価されるものの、転職においては、金融機関やコンサルティングファームの出身者、その他のプロフェッショナルなどの様々な方がライバルとなります。
それぞれバックボーンごとに強み・弱みは異なり、全てを完璧に備えた人材はそうはいません。
そのため、転職においては、公認会計士としてのスキルがどのように役立てることができて、どの部分に弱みがあるのかよく理解することが重要です。
選考の難易度は高いため対策必須
会計士と一口に言っても経験はさまざまですが、基本的にファイナンススキルが求められ、選考でもPEファンドであればLBOモデルの作成テストなどはほぼ必ずあります。
また、会食などが実施されるケースが大半ですが、そこでの話し方も含めた人間性なども見られます。入社後は投資先や取引先との会食もありますので、財務も含めたスキルセットだけが重要視されているわけではありません。
PEファンドは少数で構成されており、カルチャーマッチするかどうかもかなり重要です。
弱点を補い、ポテンシャルの高さをアピールするための材料をしっかり集めておきましょう。
VCも同様に選考のハードルは高く、テストが課されるケースが多くなっています。
どのような課題・選考が実施されるかはファンドにもよるところがあるため、しっかりと準備する必要がある点では同じです。
VCなどでは未来を見据えた業務ができる
監査法人で勤務していると、現在から過去を中心とした数字の取扱いが多くなり、未来を見据えた業務がなかなかできないといったことを感じる方もいらっしゃるようです。
過去から現在までの数値を分析するだけでなく、未来への事象に対する数値の落とし込みなど企業の成長へ向けた仕事がしたいという方も多いのですが、数字を通して企業の未来を考えていく作業というのは、過去の数値を分析する作業がベースとなります。
本質的な面は変わりなく、現在行っている業務経験は大きく活かすことができることから、未来に向けた業務をやってみたいという方はVCも含めた投資ファンドというのはマッチする可能性があります。
伴走できる魅力
ファンドにもよるところはありますが、コンサルとして提案・アドバイスをして終わりという業務ではなく、そうした施策を実行し、その後の成長までしっかりと見届けたいという方も多いことかと思います。
PEファンドでは当該投資先の経営陣の一人として送り込まれることもあり、経営陣として働く経験ができる可能性がありますし、VCでもベンチャー内部の方々と一緒に作り上げていく経験をすることができるケースもゼロではありません。
方針によるところもありますので一概に言えませんが、伴走したいという気持ちを持った方に合うファンドもあります。それはコンサルとは違った魅力があると言えるでしょう。
自身が投資側に回る経験ができるのは大きな魅力です。
PEファンド・VCの先のキャリアも広い
転職後、ずっとファンドで勤務するということはあまり多くないかと思います。
PEファンド・VCの次の転職先は非常に広くなっており、事業会社の経営企画やCFO、アセット・マネジメントや投資銀行、スタートアップベンチャーのCFO、独立などさまざまです。
特に経営に近いポジションに行くにあたっては重要な経験が積めるため、最終的に事業会社志向のある方もファンドで経験を積んでおく方が年収の伸びも違うと言えるでしょう。
投資ファンドやベンチャーキャピタルに転職するには
PE・VCの求人は市場に出回っていないケースも多いので、面接通過のハードルが高いのみならず、求人先を探すのに苦戦するケースもあります。
PE・VCへの転職する方法に関して一つずつ見ていきたいと思います。
監査法人の経験しかない公認会計士の場合、20代のうちに転職しておく必要がある
基本的には監査経験しかない公認会計士の場合、転職のハードルはかなり高いように思います。
先ほど記載した通り、監査法人のみの場合、基本的にはポテンシャル採用枠で行く必要があるため、その部分が対象となる20代中盤までのうちに転職しておく必要があるでしょう。
一般的には、FAS等の財務関連のファームや投資銀行などの金融からの転職が多い他、ファイナンスに強くなくても戦略コンサルにて経験を積んでからチャレンジされる方が多い傾向です。
ある程度経験があるケースにおいては30代での転職も十分に可能ですが、そのような経験を持っている方はそこまで多くないといえるでしょう。
ただし、経験があればよいというわけではなく、そこでの実績・素養もしっかりチェックされますので、しっかり成果は出しておく必要があります。
また、これまで記載したとおり、ファイナンスや会計の知識のみならず、人間性や性格などの面も重要です。
監査法人の勤務しかないケースだとビジネスマンとして幼いという印象を与えるケースも多くなっており、事前の情報収集も含めてしっかりと調査を行っておいた方がいいです。
転職先を探すには
転職エージェントやヘッドハンターを経由して転職されるケースもありますが、人脈などを経由した人伝の転職も多くなっています。
人脈がないケースにおいては転職エージェント等に転職要件や具体的な業務内容、PEファンド・ベンチャーキャピタルの仕組み、具体的な仕事内容などに関してしっかりと情報収集しておくことをおすすめします。
特にファンドの仕組みや具体的な仕事内容に関しては、その構造をよく理解しておく必要がありますので、PEファンド・ベンチャーキャピタルへの転職に興味のある方は事前に転職エージェント等から情報収集しておきましょう。
公認会計士がファンドやベンチャーキャピタルに転職するケースにおいては、まず、会計士が転職する上でという視点で会計士向けのエージェントであるマイナビ会計士と金融方面の領域に強いという意味でコトラの両面から情報収集されるのが良いかと思います。
いずれにせよ、情報収集は多面的に行った方がいいため、何か一つの媒体・サービスに頼るのではなく、何でも使えるものは使ってください。