不動産登記を全て司法書士ができるわけではない
不動産登記は司法書士の主な仕事の一つです。不動産の登記事項には、表題部という不動産の表示に関する登記が記録される部分と、権利部という所有権などの権利の登記が記録される部分があります。
このうち、表題部の登記は、建物であれば、所在・家屋番号・種類、構造・床面積が、土地であれば、所在・地番・地目・地積が記録されます。この部分に関する登記は土地家屋調査士の職域であり、司法書士には登記を代理申請する権限がありません。
司法書士が登記申請を代理することができるのは、権利部の登記です。
実は、権利に関する登記には登記義務がありません。表示に関する登記には登記義務があり、登記を怠ると過料が科せられることになっていますが、権利に関するものについては、例えば、中古物件を購入して所有権移転登記を怠っていても、相続財産の登記名義を変えないまま放っておいても何ら罰則はないのです。
しかしながら、民法では、不動産の物権変動は登記をしなければ第三者に対抗できないことになっていますので、事実上は権利部の登記も必須のものといえます。
それでは、具体的にどのように登記申請を行うのか代表的な例を挙げてみましょう。
売買による所有権移転登記の手続
買主甲が売主乙所有の不動産を売買により取得した場合を考えてみます。権利に関する登記の申請は、法令に定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないことになっています。
登記権利者というのは、権利に関する登記をすることにより、登記上、直接利益を受ける者をいいます。この場合は買主甲が登記権利者です。登記義務者は、権利に関する登記をすることにより、登記上、直接不利益を受ける登記名義人者をいいますので、売主乙が登記義務者となります。
登記は登記義務者と登記権利者の共同申請で行いますから、司法書士が代理申請する場合は甲、乙双方からの委任状が必要となります。また、所有権移転の登記の原因を証する情報として、この場合だと、売買契約書と領収書を添付する必要があります。その他、当該不動産の登記識別情報(乙が所有権を取得したときに登記所から通知されたものです。従前は権利証によっていました。)、乙の印鑑登録証明書及び甲の住民票が必要です。
これらを登記申請書に添付して、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。インターネットを利用したオンライン申請も可能です。添付書類については郵送する必要がありますので、オンラインですべて片付くわけではありません。
相続による所有権移転登記の手続
相続登記の場合は少し複雑です。不動産の登記名義人Aが死亡し、配偶者Bと子C、Dが相続人であるとします。
相続登記の場合、登記原因証明情報として、被相続人Aの死亡の事実、Aの相続人が誰であるかを証明する書面が必要です。Aの死亡事実については、死亡の記載のある戸籍事項証明書をもってします。相続人の証明については、Aの出生からの戸籍を全て取得し、配偶者B、子C、D以外に相続人がいないことを確認し、あわせてB、C、Dの現在の戸籍事項証明を取得します。
相続人の全員が法定相続分に応じてその不動産を取得する場合は、以上の登記原因証明情報で足りますが、相続人の一部の者、例えばBが不動産を取得する場合は、Bが権利を取得できる根拠を示すものが必要です。
不動産はBに相続させるというAの遺言書があれば、それが証明情報になります。公正証書遺言以外の遺言書は家庭裁判所の検認手続きをしておかなければなりません。遺言書がない場合は、遺産分割協議書が必要です。相続人は協議して相続財産の帰属を決めることができます。どの財産を誰が相続するかを記載した遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印します。不動産をB1人の名義にしたいなら、遺産分割協議書で不動産を特定して、Bが相続する旨記載します。
相続登記は、登記名義人が亡くなっているわけですから登記義務者がありません。売買のように共同申請ができませんから、不動産を取得する相続人の単独申請です。登記識別情報は必要ありません。取得者の住民票は必要です。司法書士が代理で登記申請を行うには、不動産を取得する相続人の委任状を添付しなければなりません。
司法書士事務所等で不動産登記の仕事がしてみたいとお考えの方は以下の記事をご参照ください。