公認会計士が監査法人から転職する際に、有力な転職先の候補の1つとしてFASがあります。近年はFASの中でもフォレンジック部門へと転職するケースが増えています。
フォレンジックは、企業の不正調査や不正を未然に防ぐ内部統制構築支援など監査法人での経験やスキルが活かせます。そのうえで、その他の公認会計士と差別化したキャリアを積んでいくことができるため、新しいポジションを求めている方に注目されています。
ここでは、フォレンジックへの転職に興味のある公認会計士向けに、仕事内容とキャリアパスを紹介するとともに、フォレンジックを経験した後のキャリアについて見ていきたいと思います。
目次
- 1 フォレンジックの仕事内容は?不正調査というとITのイメージがあるが、公認会計士はどのようなフィールドで活躍するのか?
- 2 フォレンジックの残業時間や離職率は現時点ではそこまで高くない印象
- 3 フォレンジックへの転職にあたって求められるスキルや役割、志向性
- 4 どのようなところでフォレンジックを求人募集しているのか?
- 5 フォレンジックに従事するにあたり、公認会計士以外の資格は必要か?
- 6 フォレンジックへの転職に際して情報収集を行うのによさそうなエージェント
- 7 専門性が高く、良くも悪くもとがったキャリアになる可能性
- 8 フォレンジック後のキャリアパスは狭いようで広い
- 9 公認会計士のフォレンジック部門への転職は現在発展途上だがチャンスは多い
フォレンジックの仕事内容は?不正調査というとITのイメージがあるが、公認会計士はどのようなフィールドで活躍するのか?
フォレンジック(不正調査)という分野は、アメリカではメジャーな分野ですが、日本では比較的新しい分野になります。
近年大手企業の不正や不祥事が報道されることも増えたような印象がありますが、そういった不正から経営破綻にまで追い込まれてしまうケースというのはあります。そうした背景もあり、企業の不正調査や防止の需要が高まり、注目が集まっています。
不正としてイメージしやすいものとしては、たとえば企業の社内システムから社内情報を抜き取り、機密情報を盗むというものがあります。他社に売り飛ばしたり、誤作動を生じさせて損害を与えたりなどが考えられます。
この場合は「ログの調査」や「不正に関する診断」などの調査が行われます。
こうしたIT周りに関する事項だけ見ても、記載した2つの事項は求められる専門能力が異なるので、複数の専門家が調査にあたります。
公認会計士が関わるのは会計不正に関する調査
こうした中で、公認会計士が関わる案件としては、会計に関するものとなります。
イメージしやすいのは、粉飾決算でしょう。あとは、横領などのお金の動きが発生するものにもかかわることがあります。
こうした会計に関する不正が行われるケースでも、ITやネットワーク、デジタル機器が使われますので、会計に関する知識だけでなく、ITやその周辺の知識まで含めた総合的な知見を持って調査していく必要があります。
ただ、当然公認会計士がすべての領域についてスペシャリストになることは難しいため、フォレンジック業務では、専門領域を持った各プロフェッショナルの方々とチームを組み業務にあたっていきます。そのため、まずはどこかの領域に専門性を持っていることが重要となります。公認会計士の場合は、財務会計領域のプロフェッショナルというところとなります。
不正の調査にあたっては、監査と同様に、経営者や担当者などの関係者へヒアリングを行い、その要点をまとめつつ、各種書類のチェックを行っていきます。
書類チェック業務も多いのですが、取材業務が多いのもポイントです。
また、公認会計士に求められるものとしては、不正にあたって、財務会計的な視点での企業に与える損害額等の算定などもあります。
IT監査経験は必要?
公認会計士の場合、IT監査経験のある会計士が転職しているイメージですが、そうでなくても転職は可能です。
監査法人での監査経験は専門スキルとして生かすことは十分に可能で、主に会計周りに関する部分(不正会計に関するコンサルティング)に関与することになるでしょう。
転職後は会計のみならずIT/デジタルへの知見など相応のスキルアップは必要になりますが、入社の時点では監査法人経験とポテンシャルが評価されれば十分に転職は可能です。
近年は財務会計とIT/デジタルは切っても切り離せない関係性なので、フォレンジックでの業務経験は非常に大きいものとなり、今後のキャリアにも良い影響になります。
不正が起こらない内部統制構築支援も
不正調査に関しての記載が中心となりましたが、実務においては、不正が起きない仕組みづくりをすることとセットでの対応となるケースが多いかと思います。
内部統制が機能していないからこその不正発生であることを考えると、どうすれば不正が起きないか?という視点がかなり重要です。
不正が起きる事業会社内部では、内部統制の問題点が発見されるケースが多く、社内体制の構築も改められるわけですが、キャリア的な見方に視点を変えると、外部の調査機関にこうした業務をお願いするということは、こうした問題に対処する専門家が事業会社内部でも求められてきているということです。キャリアパスという点でも、フォレンジックでの経験は要注目だと考えられます。
実際に、不正調査や防止に関する業務にあたって、監査業務の時と違って、企業の上層部がかなり協力的であり、熱量がある場合が多くなっています。
先ほど記載した通り、不正によって経営破綻に追い込まれることがあるからです。そうでなくとも、上場廃止や業績悪化など、早くなんとかしないとまずいのです。
そういった意味で、経営陣は特にフォレンジック経験のある人材に注目するケースは増えていくでしょう。
調査結果の報告書の作成は慎重に
調査結果報告書等を作成するわけですが、これは関係者へ開示されます。報道機関も見ます。
つまり、ニュースで流れたり、批判的な目で見られたりするわけです。
記載の仕方には気を使うことは想像できるでしょう。
フォレンジックの残業時間や離職率は現時点ではそこまで高くない印象
一概に断定できるわけではありませんが、FASの他部門と比較するとフォレンジックは離職率が低い印象です。
在籍期間も他部門よりも長い傾向にあります。
会計士が所属する割合などがそもそも違うので一概にいえませんが、FASの中でも働きやすさという点では、良い方なのではないかと考えられます。
エージェント経由で転職されるケースも多いため、直近の情報などはエージェントに確認するのも良いでしょう。
注意点としては、監査法人とは異なり、いつが繁忙期になるかがわからないということです。
不正調査や防止など、それらの業務がいつ発生するかはわかりません。
急な案件で休みがなくなった、といった話を伺うこともありましたので、一定の大変さは想定しておくべきでしょう。
フォレンジックへの転職にあたって求められるスキルや役割、志向性
監査法人での経験だけでも転職は可能であると記載しましたが、もう少し細かく見ていきたいと思います。
監査で細かい論点・箇所が気になった方
監査実務では効率化が重要視されていますが、実務を行っていてスルーすべきかどうか迷う細かいところが気になって非効率ではあるが深堀したいと思うこともあるかと思います。
何が不正の手掛かりになるかわからないので、細かいところに気が付きやすい方はどちらかといえば向いていると言えるかと思います。
スケジュールが無限にあるわけではないので、効率的な作業も当然重要なのですが、作業の効率化意識よりは、発見に至るまでの着眼力とそのあとの分析力だと考えられます。
監査において、企業側の会計処理の誤りや矛盾をよく見つけていて、どこを深ぼったらよさそうか目星がつけるのが得意だった人は向いていそうな気がします。
忍耐力
かなり細かく地味な作業が多いため、公認会計士の中でも更に忍耐力が強い人が合う傾向にあります。
監査業務に飽きが来てしまうタイプの方だと、効率的に作業化して早く終わらせたいと思うケースも多いかと思いますが、そうしたタイプだと逆に合わないかもしれません。
※効率化することが悪いわけでは無く、マインド面や姿勢の話です。
コミュニケーション能力は重要
まず、業務を進めるという点でもチームを組んで行うわけですから、コミュニケーション能力はとても重要です。
会計士だけで構成されるわけではなく、エンジニア含めたその他の専門家とチームを構成するわけですからビジネス上での円滑なコミュニケーションが取れるかどうかは大事であると言えます。
また、実務という面でも、不正をするのは人であり、それを調査するという意味では、人とのコミュニケーションも重要であることから、対話力なども必要です。
会話をしたりコミュニケーションを取ることに苦手意識がある方は苦労する可能性があります。
ITに苦手意識がない
何度か記載しておりますが、IT/デジタルとの関りは避けて通れないというか、むしろ必須です。
なので、苦手意識がない、という書き方をしましたが、意識がなくても苦手だと向いていない可能性はあります。
ただ、これまでITにそれほど関わってきていないと言う方でも無理ではありませんので、まずは苦手意識があるかどうかという観点で考えてみてください。
どのようなところでフォレンジックを求人募集しているのか?
現在のところ、Big4系のFAS・コンサルティング会社での勤務が中心となります。
フォレンジックの分野で最も進んでいるのは、デロイトだと言われていましたが、各社この分野には力を入れているので、それぞれ話を聞いてみても良いでしょう。
現時点では、どちらかといえばまだ比較的新しい分野に位置づけられているため、新たなキャリア・ポジションを得るには良い転職先であると考えられます。
近年は採用のハードルがあがっているように感じますが、ポテンシャルが評価されれば採用されるケースも多いです。
転職を検討する場合、自己応募ではなく、必ず転職エージェントやヘッドハンター等から情報収集の上、転職した方が良いです。
エージェント経由でフォレンジック部門へ転職されるケースが大半であり、選考情報含めて情報が蓄積されているので効率的に情報収集と対策ができるからです。
また、転職後のキャリアもしっかり聞いておくべきでしょう。
エージェント経由の業務説明会等も行われているので、興味のある方はどこかしら登録しておくと良いかと思います。
マイナビ会計士のサイトで、フォレンジック分野に携わる方のインタビューや企業(Big4fas等)の情報が載っていたので、登録して相談してみても良いと思いますし、レックスアドバイザーズも転職相談や情報提供で良い評判が多いことから相談してみると良いかと思います。
フォレンジック以外も含めてBig4Fasへの転職に興味のある方は以下もご参照ください。
参考までにエージェントの詳細についてまとめておきます。
フォレンジックに従事するにあたり、公認会計士以外の資格は必要か?
必須の資格はありませんが、フォレンジックに従事している方の場合、CFE(公認不正検査士)をお持ちの場合も多いです。
アメリカの資格ですが、不正調査に関しての専門知識があることを示す国際資格で、一定の認知度はあります。
アメリカにおいては一定のポジションに就くにあたり、優遇措置あるいはそもそも必須としているケースがあるという話を聞きますが、グローバル企業やBig4系のコンサル、FASなどで勤務することを考えるならば、こうした資格に目を向けてみるのも悪くないでしょう。
ただ、監査法人から転職する時点においては、これらが必須ということはないかと思います。
フォレンジックへの転職に際して情報収集を行うのによさそうなエージェント
簡単にエージェント情報をまとめておきます。
会計士のフォレンジック部門への転職サポート実績もお持ちのレックスアドバイザーズであれば面接などの選考サポートはもちろんですが、フォレンジックを経験後のキャリアなどに関する情報なども取得でき、広くキャリアについて検討した上で最適な転職先を決定していくことができます。
フォレンジックの場合Big4が中心となりますが、各社によりやや特徴は違ったりするのでそうした部分についてもしっかり情報が取得できて良いでしょう。
公認会計士の転職支援の歴史が長く、プライム市場へ上場していることからも分かる通り実績という点ではかなり大きいエージェントです。
事業会社の求人保有数が多いのでフォレンジックの先のキャリアとして事業会社も考えているというケースでは合わせて事前に確認しておくのも悪くないでしょう。
事業会社への転職を実現させるという意味では会計士向けのエージェントの中では確度が高いエージェントであると考えることができます。
専門性が高く、良くも悪くもとがったキャリアになる可能性
まだまだ歴史が長いとは言えず、キャリアという意味では発展途上のジャンルであると考えます。
一般的な会計士とは違ったスキルセットになる可能性は極めて高いので、実際に転職すべきかどうかは慎重に考えた方が良いでしょう。
フォレンジック系の人材が不足しているのは間違いないのでキャリアとしては面白いものが作れるとは思いますが、そもそもなぜ会計士になったのか?というところまで振り返り、先のキャリアパスも想像し、フォレンジックルートへ行くことが本当にいいのかどうかしっかり考えましょう。
フォレンジック後のキャリアパスは狭いようで広い
仮にBig4FASのフォレンジックに所属したと仮定しますが、その後のキャリアパスはさまざまです。
上記で記載した通り専門性の高い領域でのキャリアになるので、業界・フィールドという意味では財務会計の専門性を高めるよりも幅が狭くなる可能性はあります。
ただ、セキュリティや不正防止は近年とても需要が高い分野なので、キャリアパスという意味ではそこを軸に選択肢はそれなりに豊富です。
たとえば会計士であればFASの次に事業会社へ転職されるケースが比較的多いのですが、フォレンジックという領域で考えた場合はセキュリティ関係の会社であるケースが多くなっています。ポジションはさまざまですが、財務会計からはそれます。
その他の一般事業会社では内部監査室や監査役などのポジションに就くケースもあるでしょう。途中で記載したように、不正の防止には注目が集まっています。
また、FASから他のコンサルへ転職というケースも多くありますが、その場合はリスクマネジメント関連のコンサルティングファームへ転職する道もあり、近年特に大きな需要のある分野ですので、フォレンジックで経験した後のキャリアは結構ある印象です。
一般的な会計士とは違ったキャリアルートになる可能性があり、その分違ったチャンスがあると言えます。
ただ、財務会計を軸にしたいと考えているケースでは、キャリアの選択肢が狭まるため、注意が必要なことから、フォレンジックでのキャリアに興味のある方はエージェント等も有効活用し、情報収集を行うようにしてください。
公認会計士のフォレンジック部門への転職は現在発展途上だがチャンスは多い
フォレンジックは注目分野であり、転職される人は増えてはいるものの、まだその数は多いとは言えず、キャリアルートも王道的なものがわかりにくい状況となっています。
フォレンジック部門で長く働く人が多いため、コンサルで長く働きたいという志向性の方にも合う可能性はあり、なんともいえない状況です。
キャリアとしては何度か記載したように特殊であるため、情報収集をしっかり行い、いろんな角度から判断するようにしましょう。
新しい分野でポジションを掴みたいとお考えの方は、まずは一度相談をしてみるのが良いかと思います。
今後伸びる分野であり、注目なのは間違いありませんが、公認会計士はさまざまなことにチャレンジできる資格です。
フォレンジックも含めて、いろいろと検討してみるのも良いでしょう。
フォレンジックサービスを展開するコンサルティング会社への転職実績もあり、フォレンジックに少しでも興味があるという方はマイナビ会計士を利用して情報収集することをおすすめします。
そもそもフォレンジックについてまだよくわかっていないからもっと深く知りたいというケースにおいても、転職エージェント側は各社ごとの違いなどもふまえて詳細な情報を教えてくれるため、少しでも興味があるようでしたら一度転職相談してみることを推奨します。