公認会計士の転職で人気のFAS業界とは?

公認会計士のFAS業界への転職

公認会計士が監査法人から転職を考える場合に有力な選択肢の候補となるのがFASです。

FASとは、ファイナンシャル・アドバイザリー・サービスの略称で、財務・会計に関する専門的な助言を実施するコンサルティングサービスを意味します。

M&Aや事業再生などFASが取り扱う案件の需要は年々増加しています。日本国内のみの案件も増えており、それに伴ってFASでは新しい人材を積極的に採用する傾向にあります。

監査法人での業務経験はFAS領域で比較的活かしやすく、転職の際にも評価されます。
財務・会計の原理原則論を理解している公認会計士は十分に即戦力として働くことができるため、監査法人の次のキャリアとして人気の転職先の一つとなっています。

その一方で、FASは専門性の高いハイレベルな業務を取り扱うことが多いため、転職を希望する場合には、業界に関する正しい知識と綿密な分析が重要になってきます。

ここでは、公認会計士がFAS業界に転職を希望する場合に押さえておくべきポイントをご紹介します。

FASの業務内容

FASの大まかな業務は、財務・会計に関する専門的なコンサルティングを実施することです。その中でも公認会計士が携わることが多い業務は、以下の3つになります。

公認会計士が携わることの多い主なFAS業務
  • M&A:財務DD(デューデリジェンス)、企業価値評価(バリュエーション)、買収スキームの検討
  • 事業再生:財務分析、再生計画立案、金融機関リスケ対応、再生後のバリューアップ支援
  • フォレンジック(不正調査):不正リスク評価、不正防止対策、不正リスクマネジメント体制構築
中でもM&Aと事業再生は監査法人出身の公認会計士がFASに転職した場合に最も多く携わることになる領域です。

財務DDや企業価値評価などは業務の手順が監査と似通っているため、会計監査を多く経験してきた公認会計士にとっては自分のキャリアを活用しやすくなっています。

フォレンジック(不正調査)は一見すると他の専門分野のように見えますが、不正リスク評価や不正防止対策などにおいて、公認会計士の業務の1つである内部統制監査の知識と経験を応用することができます。
なお、このフォレンジックはアメリカでは一般的ですが、日本ではここ十数年くらいで大きく注目されるようになった比較的新しい分野です。後述する大手監査法人(Big4)系のFASを中心に各社力を入れている分野ですので、こうした新しい分野に飛び込んでみるのも面白いかもしれませんね。

フォレンジックに興味のある会計士の方は以下ご参照ください。

FAS業界の構造と転職先

公認会計士がFASへ転職する際主な候補となるファームとしては、大まかに分類すると大手監査法人(Big4)系FASか中小独立系FASの2つに分かれます。
いずれも監査の経験しかない公認会計士の方でも転職が可能ですが、転職を考えた際に大手と中小では経験できる業務や身につくスキル、その先のキャリアも大きく変わってきますのでFASで経験を積んだ後のキャリアも見据えた転職先選びが重要となります。

大手監査法人系FASへの転職

いわゆるBIG4などに属するFASです。取り扱う案件の規模が大きいのが特徴で、大手上場企業、外資系企業、グローバル企業などが主なクライアントになります。

1つの案件に携わる人員数が多く、担当業務ごとに細かくチームが分かれています。複数のチームが連携して業務を遂行する場合もあります。

財務DDなど監査法人出身の公認会計士が早期から活躍できる部門においては監査経験のみの公認会計士でも30歳から30代の中盤までであれば比較的転職がしやすい領域です。

企業価値評価や不正調査など特別なスキルや経験が重要になってくる部門においては関連する業務の職歴が要求されます。

そうした部門では経験者の人材も採用しますので、一般的な転職と同様に過去どのような経験をしてきたのか?という側面も重要となってくることから監査経験しかない公認会計士の場合は年齢が上がるにつれて採用されにくくなる傾向にあります。そのため、監査以外の業務がやりたいと思っている会計士は20代から30代前半までのポテンシャルが評価される年齢のうちに転職しておくといろいろスムーズに行きやすいかと思います。

なお、ファームにもよりますがBig4系のFASでは、所属する監査法人から人材を補充することができるため、監査法人の人員に余裕がある場合は外からの転職が難しくなる傾向にあります。

逆に監査法人で人員が不足している場合はFASへの転職を成功させるチャンスになります。

そういう意味では現在各監査法人では人材不足が続いており、FASへの転職は比較的しやすい状況と言えるでしょう。

また、以前までは高い英語力を転職要件として必須にしているところがほとんどでしたが、現在は入社の時点ではそこまで高い英語力がなくても大丈夫なケースもあります。

クロスボーダー案件のみならず国内でのM&A等の需要も大きいため、必ずしも高い英語力が必要であるということでもないためです。

ただ、英語力が不要ということではありません。当然クロスボーダー案件に関わることを考えているのであれば英語力を高いレベルで高めていくことは必要ですが、そうでなくてもリーディング・ライティング(メール対応や資料作成等)は必要です。現時点で高い英語力がなくても大丈夫なケースが増えてはいますが、いずれにせよ勉強が必要にはなります。

※このあたりの英語力については後半に加筆しました。

近年は市場の変化が激しく採用要件の変化が激しくなっている

2023年以降で見ていくと、コロナ禍前の超絶売り手市場の頃と比べると採用要件が上がっているファームが増えており、これまでは一定以下の経験の方でも入社可能性がありましたが、昨今は目安となる監査実務経験が5年に相当するスキルが目安になる傾向もあり、一概に入社しやすいとは言えない状況でもあります。

多くのファームで人材を求めていることは間違いないのですが、スキル不足・経験不足の方を採用して業務の質が落ち、かえって効率が悪くなるなどの経緯を持つファームもあるので、要件を上げてきているところもあります。

このあたりは実際に転職活動をする時期・タイミングにもよるところもあるので転職エージェント等から情報収集しておくのが良いです。
Big4FASに興味があるケースではマイナビ会計士を利用される会計士も多いですが、この後説明するBig4以外の独立系FASへの転職も検討しているケースではレックスアドバイザーズなどの老舗のエージェントの利用も検討してみるとよろしいかと思います。

中小独立系FAS

中小の監査法人、独立系の会計事務所、ファイナンス系コンサルティングファームなどに属するFASです。

中堅企業、成長企業、オーナー企業などがメインのクライアントで、1つのチームが1つの案件を一貫して担当するのが業務の基本形態になります。

依頼主に近い距離から直接助言を提供できるため、コンサルティング業務自体の実感や満足感を得たい場合に有効な選択肢になります。

中小独立系FASでは、監査経験のみの公認会計士については、30代中盤くらいまでの年齢の人材が採用されやすくなっており、監査経験のみで年齢も高い(40代等)公認会計士の場合は、直接FASに転職するのは難しくなってきます。

もっとも、中小監査法人系FASの場合、監査部門とFAS部門を厳密に分けることなく、並行して業務を実施している場合もありますので、良くも悪くも監査とFASを並行しているケースであれば、当初は監査要員として採用されて後にFAS業務にもチャレンジできる可能性が高くなります。未経験で年齢が高い場合にある種おすすめの転職先になります。

中小独立系のFASの場合、各社ごとで業務の進め方が大きく異なるケースも多いため、中小を希望される方は念のため転職エージェント等で情報を取得しておくことをお勧めします。

中小独立系のFASなど中小規模のファームへの転職を希望する場合は古くから会計士の転職を支援しているレックスアドバイザーズが情報がしっかりしているように思います。

エージェントごとに仲の良いファームが違ったりする傾向にあり、情報の濃淡があるのでいくつかのエージェントから話を聞いてみるのも良いかと思います。

公認会計士がFAS業界へと転職するには?

FAS業界は監査経験しかない公認会計士にとって最も転職しやすい先の一つとなるため、監査法人からはじめて転職する会計士に人気の分野です。
FAS系のコンサルティングファームで経験を積んだ後、事業会社で財務や経営企画を経験し、その後事業会社のCFOとしてキャリアを歩んでいる方も多くいます。
こちらの監査法人から転職したい会計士が活躍できるフィールドは?の記事にて、FASや監査法人含め、公認会計士が活躍しているフィールドをまとめておりますので興味のある方はご覧ください。

FASを含め、その他どのようなキャリアの可能性があるのかもっと詳しく知りたいという方は、公認会計士の転職に強いエージェントなどから情報を手に入れてみるのもよいでしょう。

公認会計士は会計業界のみならず、様々なところで重宝されます。
ただ、年齢によっては監査経験しかない会計士は求められないこともあるため、プラスアルファで多くの経験を積んでいくことも重要です。

そのため、他の会計士の方がどのような経験を積んで、どのようなキャリアを歩んでいるのか、しっかり情報収集しておくことで、先のキャリアも見据えた転職が実現できます。

キャリアを決めるのは自分自身ですが、公認会計士のキャリアは幅が広いため、多くの転職事例を見ている転職エージェントから情報収集して、広い視野でキャリアを考えることをお勧めします。

ここでは、FASも含めて会計士の転職事情に明るいエージェントをまとめておきますので、ご参考ください。

マイナビ会計士
マイナビ会計士
公認会計士のFASを始めとする各種コンサルティング会社への転職実績が高い他、事業会社への転職実績も非常に高いので、Fasと事業会社どっちにするか迷っている会計士などが相談するのに良いでしょう。

監査法人での勤務経験しかない会計士の方の場合、なんとなくコンサルをやってみたいということでFASに興味を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、コンサルへ転職した場合のメリット・デメリットなどを他の領域と比較してしっかりと情報提供もしてくれるので初めて転職されるという方の利用にマッチしやすい傾向です。

FASへの転職のみならず、その先のキャリアも見据えた転職相談が行えるという点と、コンサルティング会社の場合、書類選考・面接対策が重要となりますので、そうしたサポート体制が手厚い同社を利用することで、転職活動も効率的・効果的に進めることができるのではないかと考えられます。

転職サポートが手厚い傾向にあるので、転職経験の浅い会計士の方は登録しておくと良いでしょう。

転職に役立つ情報もたくさん保持しており、応募書類の書き方から面接で聞かれるポイント、面接官の特徴まで丁寧に解説してくれるため、はじめての転職でも安心です。

Rex
レックスアドバイザーズ

Big4FASや中小独立系のFASなどにおける会計士の転職支援実績を多数お持ちであり、各ファームの違いやキャリパスの違いなど先々まで考えた転職支援が受けられるのが特徴です。

「なんとなくFAS」とお考えの会計士の方も多いのですが、特定の業界や企業規模、業務経験におけるFAS経験者を求める事業会社のハイクラスポジションも多いので、将来どうなりたいか等によりどこのファームへ転職するのかは変わってくることから、会計士のキャリアに精通したRexで転職支援を受けるのは有用と言えるでしょう。

ジャスネットキャリア
会計士の転職に強いエージェントのジャスネットキャリア

転職相談に定評があるため、キャリア相談をじっくりやりたい会計士に向いているエージェントです。
また、登録するとアカウンタンツマガジンが読めるのですが、各会計士が転職してどういったキャリアを歩んでいるのか非常に参考になるため、こうしたものを閲覧するだけでも有用性があると言えるでしょう。


MS-Japan
MS-Japan会計士転職決定率ナンバーワン

FASはもちろんなのですが、事業会社や会計事務所など公認会計士が広く転職先を考える際におすすめの転職エージェントです。
FAS等で経験を積んだ後、最終的に事業会社へと転職したいと考える会計士の方も多いことから、事業会社で活躍するにはどのようなステップを踏んだらよいかといったアドバイスが貰いたい方には特におすすめです。
求人数が豊富なので、監査の次のキャリアで悩んでいる方は、多くの選択肢の中から次のキャリアを考えることができるエージェント登録も検討すると良いでしょう。

公認会計士がFAS業界へと転職する際に英語力は求められるのか?

転職にあたってどの程度英語力が必要かという質問も多かったため、FASへ転職する際に英語力がどの程度必要かを追加で記載させていただきます。

FASへの転職というと高度な英語力が求められる印象を持っている会計士は少なくありません。
実際にクロスボーダー案件に関与するのであれば高い英語力が必要となりますが、それら以外の案件も多いので必ずしも高度な語学力がなければ転職できないというわけでもありません。

TOEICの点数だと何点必要か?といったことを聞かれることもありますが、実務を考えればTOEICの点数が高ければ一概に高い英語力が証明できるわけではありません。
ただ、中途採用時では一つの指標としてはTOEICの点数が重要視される傾向にあり、TOEIC800~900点程度あれば実務で使える英語力を身に着けるための下地があると判断することもできるため、TOEICの点数はある程度高い方が良いと考えます。
なので、高い英語力が必ずしも必要無いとは記載していますが、認識として最低でも700点は無いと厳しいと言えるでしょう。
実際の実務ではビジネスの英語使用(読み書きや会議)が求められるのでTOEICの点数では英語力が高いかどうかわからない部分も多いのですが、この転職時点ではTOEICの点数があることを目標にすれば転職そのものは可能かと思います。
TOEIC400点台という方でも数カ月の勉強で800点台とかにのせてくる方も多いので、転職の時点で英語が苦手という方はこのTOEICの点数を伸ばし、今後も勉強していく意思を見せ、語学力をあげていくスタンスがあることを見せるのがいいのかなと思います。

なお、当たり前ですが、英語力よりも会計・ファイナンスのスキルが重要となります。

入社後も英語の勉強は必要になりますが、英語のビジネス文章の読み書き(メールや資料作成等)は最低限できる必要はあるかと思いますが、どこまで英語を伸ばすかはキャリア次第かと思いますし、本質的には会計ファイナンスの実務スキルが重要視されますので、あなたが財務会計のプロとしてのキャリアを歩むのであればそちらのスキルを高める努力を中心に行っていくのが良いでしょう。

公認会計士のFAS業界の求人

公認会計士向けFAS業界の求人なども掲載しています。
各FASごとで大きな違いがあるため、具体的に転職をお考えのケースでは転職エージェントサービスよりお問い合わせください。

新型コロナ以降の会計士のFASへの転職状況について

世界情勢や経済の先行きが不透明な状況が続いておりますが、会計士の転職市場は売り手有利な状況が続いており、転職市場そのものは良い状況です。

ただ、例えばBIG4 FAS等では以前までと比べると採用は慎重になってきており、一部のポジションはクローズしたりしているものも出てきています。
過去数年間は空前の売り手市場ということで経験が浅い方も比較的転職がしやすかったのですが、今後は徐々に要件は上がっていくと考えられます。

社会情勢も変化していますが、採用要件も結構変わってきているのでFASへの転職をお考えの方はなるべく早めに転職エージェントなどから情報を取得しておくと良いでしょう。

なお、採用要件が厳しくなったといっても就職氷河期とかそういった状況になっているわけではなく、一時期の超絶売り手市場から普通の売り手市場になって来ているという傾向ですので、転職がしやすい状況に変わりはないです。

監査法人からの転職をお考えの会計士の方へ

FASは確かに監査法人の次の転職先として代表的なものにはなりますが、これ以外にもたくさん会計士が活躍できる場はあります。
FAS以外にも選択肢として転職先をお考えの方は合わせて以下の記事もご参考ください。
特に最近はコンサルに興味があるという会計士の方も増えていることから、FASも含めたコンサル領域への転職という視点で情報を仕入れておくと良いでしょう。

公認会計士のコンサルティングファームへの転職
監査法人から転職したい会計士が活躍できる転職先は?
公認会計士の転職エージェント・転職サイトを紹介!

※参考文献:FASの仕事内容 / 大手FASのタイトルと役割|ファイナンシャル アドバイザリー サービス(FAS)業界研究

なお、税理士の方でFASへの転職をお考えの方は税理士のFASへの転職のページも参照頂ければと思います。

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樋口 智大株式会社インテグラルベース 代表取締役
公認会計士・税理士・経理などの士業・管理部門の人材紹介を行う株式会社レックスアドバイザーズで勤務し、転職エージェントや会計専門メディアの事業の立ち上げを経験。その後、株式会社インテグラルベース(厚生労働省特定募集情報等提供事業者51-募-000806)を創業。現在は転職・採用・人事に係わるコンサルティングや求人サイトの運営を行っています。 士業JOBでは、これまで培った人脈と10年弱に及ぶ転職や採用に関する業務経験・実績を活かして転職に役立つ情報の配信を行っている他、多数の人材紹介会社とも協業し、最新の情報をブラッシュアップしながら配信を行っています。また、行政書士試験に合格しており、士業としての活動にも力を入れていく予定です。 執筆者・監修者・編集者情報へ