公認会計士試験論文式に合格し、監査法人などで仕事を始めたばかりの頃は補習所や日々の業務を忙しくこなすだけで精一杯なのが通常です。
ただ、監査法人に入所してから数年が経ち、会計士登録も済み、職場での仕事に慣れてくると、私生活を犠牲にして仕事に打ち込みすぎているのではないか、家庭や子供の将来を考えるとより良い職場があるのではないか、といった疑問が浮かんでくることがあります。
そうしたことが契機となって、仕事と生活を上手に両立させるための、ワークライフバランスを真剣に考えるようになります。
それを実現するための方法の1つが、転職です。
ここでは、転職という視点で公認会計士が理想的なワークライフバランスを実現するためのポイントについて見ていきます。
ワークライフバランスを意識した会計士の転職先の概況について

かつては監査法人は激務で体調を崩してしまう方も多かったのですが、近年は繁忙期を除いては昔と比べればそこまで忙しいというわけでは無くなってきています(マネージャー層除)。
会計士の働く環境も時代の流れとともに変化しておりますので、まず初めに、会計士の主な転職先ごとのワークライフバランスの概況についてザっと見ておきましょう。
転職先業界 | ワークライフバランス概況 | 転職の注意点 |
---|---|---|
監査法人 | 繁忙期はかなり忙しいが以前と比べれば随分と改善されたという声も聞く。長期休みも取りやすい。 ただし、スタッフ層の業務は改善されたがその分マネージャー層にシワ寄せ。 Big4監査法人はなんだかんだ忙しいがそれ以外は意外とワークライフバランスがとれ尚且つ兼業OKだったりするので、監査法人にこだわるなら情報収集をしっかりすることで意外と自分にとって良い転職が出来るケースも多い。 |
ワークライフバランスだけを考えるのであれば、監査法人もそこまで悪くないのですが、先のキャリアや福利厚生まで含めたトータルで転職先を検討するのが良い。 |
事業会社 | コンプライアンス意識の高い大手上場企業であれば比較的ワークライフバランスも取りやすく、尚且つ女性会計士が結婚や出産後に復帰しやすい環境も整っている。 | どこの事業会社に転職するかが重要。 監査法人の時のように長期間のまとまった休みはとり難い傾向。 なお、年収はかなり落ちます。また、事業会社ならワークライフバランスがとりやすい、という思い込みから転職失敗者も多いので注意が必要。 |
コンサル | ワークライフバランスという視点ではあまり向かない。 制度上女性が復帰できる環境が整っているところもそれなりに増えたが実績としてはあまり聞かない。 そのため、ワークライフバランスが第一の理由なのであれば基本的には転職先として選ぶべきではない。 ただし、ワークライフバランスとキャリアのバランスをとりたいということなら選ぶファームが重要。 |
ワークライフバランスを意識しつつ監査以外のことがやりたいケースでは、アドバイザリー部門も要検討。 コンサル経験者の方が30代以降選択肢が広がるので、結果的にワークライフバランスが取りやすくなるということも多々。 近年は在宅勤務OKな会計コンサルの求人も増えており、女性や子供を持つ親に配慮し、働きやすい環境のコンサルも増加。状況は変わってきているため情報収集がカギを握る。 |
上記はあくまで一例となります。
ワークライフバランスという言葉一つとっても受け取り方は人それぞれなため、あなたが求めるものを整理していきながら転職先を考えていく必要があります。
自分の考えるワークライフバランスを具体化する

「ワークライフバランス」とひとくちにいっても、人により捉え方は異なります。
20時までに仕事が終わればワークライフバランスが取れている、と考える人もいれば、定時で帰れるということをワークライフバランスが取れていると考える人がいたりとその定義は人によりさまざまです。
そのため、ワークライフバランスについては、「仕事と家庭の両立」、という漠然とした範囲で意識するのではなく、「子育てを優先させるために18時に仕事が終わるようにしたい」、「勉強をする時間を確保するために残業は月20時間以内にしたい」などの具体的なレベルで明確化したほうが実現しやすくなります。
定時帰りを奨励する会社は多くても、子育てのための休暇や託児サービスまで充実している会社はそう多くありません。具体化によって、そうした細かい視点を漏らさずに会社を探すことができます。
自分の要望を具体化する際に重要なことは、現時点での希望だけでなく、数年後の未来を見据えた望みについてもあらかじめ考えておくことです。
例えば、今は子育てを優先したいとしても、子供が大きくなって余裕がでてきた頃には、自分のキャリアを維持して仕事に集中したい場合もあります。その場合は、産後の職場復帰に積極的な会社などが適しています。
自分にとってのワークライフバランスとは何かを明確にすることで、本当の意味での希望に沿った転職先を見つけやすくなります。
なお、一般的なワークライフバランスの定義として、厚生労働省の仕事と生活の調査や内閣府の資料によると、仕事だけではなく、それ以外の普段の生活も充実させることを指すように記載されています。
仕事が早く終わるだけでなく、それ以外の部分の充実という点では何を重視するか個人差もあろうかと思いますので、上記記載したように、自分の中での定義を持っておくと良いでしょう。
「残業0」「休日出勤が無い」「子育てに伴って○○が可能な職場」等。
なお、国の定義によると「仕事だけでなくそれ以外の普段の生活も充実させること」と言ったようなことが定義されています。
参考:厚生労働省の仕事と生活の調査
転職先の情報収集を熱心に行う

一般企業はワークライフバランスが充実しているイメージを抱きやすいかもしれませんが、企業の特徴は千差万別です。なんとなく事業会社であればワークライフバランスがとりやすそうという漠然とした考えで転職すると、勤務先の実情に失望してしまう場合もあります。
企業の現状を把握するためには、綿密な情報収集が重要になってきます。一般的な指針としては、上場企業などの大手の会社は環境が整っている傾向があります。
理由としては、法令遵守を重視した労務管理、充実した福利厚生、各種制度や設備などが整った労働環境、などが挙げられます。
もっとも、転職市場は売り手有利の傾向もあって、ワークライフバランスの充実に力を入れているのは大手企業に限りません。優秀な人材を確保するために、就業環境を整えている中小企業や監査法人等も増えてきています。
公認会計士の専門資格を活かしてワークライフバランスを実現できる転職先としては、性別や年齢などにこだわらず、従業員の個性を経営戦略に取り入れているダイバーシティ企業もおすすめです。
その他、予算の作成などをWEB上でやり取りするなど、在宅でも働きやすい事業会社、繁忙期の忙しさが軽減されている会計事務所なども選択の候補になります。
ただし、同じ企業内でも、部門によっては残業が定常化しているというケースもあるので、企業の内情に詳しい転職エージェントなどから情報収集するのも良いでしょう。
同一企業内部でも部門ごとで状況が異なるため、企業全体の残業時間・労働時間などだけを見ていては失敗するケースもある。自身の配属部門ではどうか?上長はどんな方針か?まで得られれば尚良い。
転職先候補である企業のニーズを理解する

自分と転職先の希望が合致しないと、せっかく転職してワークライフバランスを実現したいと思っても、そもそも採用されなかったり、採用後にミスマッチに気づいて後悔する場合があります。
そうしたリスクを防止するためには、採用する側の企業が何を望んでいるのか、応募する前にきちんと見極める必要があります。
企業の希望を見極める際のポイントの1つは、実務要員として即戦力と将来性(幹部候補)のどちらを求めているのかを明確にすることです。
例えば、同じ経理のスタッフを募集していても、単純に経理として作業的要素の高い仕事をこなす人員が欲しいだけなのか、それとも難関試験を突破したポテンシャルと財務会計原理を理解し多くの企業を見てきた経験を持つ将来の幹部候補としての業務を期待されているのかによって、求められるものは違ってきます。
即戦力を求める場合は現在の知識や経験が重視されどちらかといえば単に実務をこなしていくことが求められ働きやすい傾向ですが、ポテンシャル採用の場合は潜在的な能力や将来の指導力の素養などが求められますし、仕事内容に関しても入社当初はともかくとして、高いアウトプットが求められる傾向にあるので、大きなストレスになってくる可能性はあります。
極端な事例で恐縮ですが、転職を希望する企業のニーズを分析することで、自分がどんな人材としての採用を望んでいるのか、企業の希望に沿った条件を満たしているのかが見えてきます。
そういった各種ニーズとあなたのワークライフバランス以外の希望(キャリア的な側面等)とも合わせて転職先を決定していく必要があります。
監査法人でもワークライフバランスがとれる転職先はあります

ちなみに、監査法人はワークライフバランスがとれないと思い込んでいる会計士の方も多いのですが、そんなことはありません。
確かにBig4等の大手監査法人は比較的忙しいので、ワークライフバランスがとり難いと感じている方が多いのですが、一部の中小の監査法人であれば比較的ワークライフバランスはとりやすいです。
中小の場合、比較的自由度が高い点と、非監査業務を経験したい場合などでは、監査とアドバイザリー業務の両方(監査の割合の方が多いですが)を経験できる転職先もあるので、監査法人に勤務しつつワークライフバランスを実現し、さらに非監査業務もやってみたいという会計士にとってはおすすめの転職先ではあります。
その他副業なども可能なので、ご自身で様々な業務を受託してやっていきたいと考えているケースでも独立前段階として役立つでしょう。
ただし、中小監査法人の場合は年収が1割~2割程度下がってしまうことを覚悟しておいた方がよいでしょう。
そのため、ワークライフバランスを求めてBig4以外の監査法人へと転職される場合は、監査法人の内情に詳しい転職エージェント等から情報収集しておくことをおすすめします。
※スタッフ層においては、近年はBig4監査法人でもワークライフバランスはそこそことりやすくなってきています。家庭の都合にも理解は出てきています。昔と比べればかなり良くなっているようです。ただ、ワークライフバランスの定義にもよるので現状監査法人以外の領域で働いていて監査法人も気になるという方は一度転職エージェントから各社の傾向を聞いてみると良いでしょう。
ワークライフバランスを実現しつつ年収も下げたくない会計士の転職

一部の大手上場企業や責任者ポジションでの転職を除いて、ほとんどの方がワークライフバランスを意識した転職をする際は年収が落ちます。
800万円くらいもらっていた方であれば、600万円前後になってしまう方が多いでしょう。
事業会社の場合は年収だけではなく福利厚生が整っていたりして安定感があるので一時的な年収ダウンに納得して転職される方も多いのですが、中には年収を一切落とさずにワークライフバランスに優れたところに転職したいとお考えの方もいらっしゃいます。
そうした場合、限定的な話になってしまいますが、監査法人でIPO支援などの業務を行っていた方であれば、IPO準備中ベンチャー企業なども意外と狙い目です。
ベンチャーというと忙しいイメージがあるかもしれませんが、意外とメリハリをつけて働くことを意識した方も多いので、ワークライフバランスがとれる転職先も実はあります。
経理・財務の業務とIPO実務ができるということで、ハマる方はハマるポジションです。
ただ、ケースとしてはそれほど多いわけでは無いので一例としてお考え下さい。
また、このケースでは、毎日定時で帰れるという意味のワークライフバランスというわけではなく、
18時~20時には帰れて、仕事と生活でメリハリをつけて働く、という視点にたったワークライフバランスになります。
ワークライフバランスもとりつつBig4にいたときからそれほど年収を落としたくないとなると、やはり良い求人が出ているタイミングでうまく転職をする必要がありますので、転職エージェント等に相談し、そうした求人が出てきた際にいつでも応募ができるよう準備を整えておくのが良いでしょう。
そうした先は人気があるので、あなたのスキルも当然重要になりますし、タイミングも非常に重要です。
公認会計士がワークライフバランスがとれる環境に転職するために
正直なところ、求人票やホームページを見ただけでは、本当にワークライフバランスが取れる環境の職場なのかわからないことが多いです。基本的に、企業や求人会社は良いところを前面に打ち出してくるからです。
監査法人内部の情報であれば、同僚や友人、昔の勉強仲間などから比較的情報をとりやすいかと思いますが、事業会社やコンサルティングファーム、会計事務所となるとなかなか情報が取りにくいかと思います。特に公認会計士が事業会社へ転職する場合、他の一般社員とは違った業務や成果を期待されるケースもあるため、ネット上に出ている情報だけでは不十分なことも多々あります。
そうした場合、転職エージェントの活用を視野に入れてみるのもいいでしょう。転職エージェントの言うことを鵜呑みにするのもよくありませんが、情報収集に不安のある方は、不安を軽減させるために使ってみるのもよいかも知れません。以下に会計士の方の転職で良さそうなところを一部紹介させていただきます。
なお、転職エージェントにワークライフバランスがとれる環境で働きたいと伝える際には、冒頭にも記載しましたが、あなたが思うワークライフバランスがとれる環境とはどういうものなのか、しっかりと伝えましょう。
私の感覚だと毎日20時に仕事が終わればワークライフバランスがとれているという感覚なのですが、人によっては、残業が多くブラックな環境と感じるようなので、言葉の定義には気をつけましょう。
また、自信のある方や転職エージェントは嫌いだという方は、実際の面接の場で直接確認してみるのも良いでしょう。企業側もミスマッチを防ぎたいと考えておりますので、働き方や求められていることに関する質問をしたからといって選考で不利になることはあまりありません。
ワークライフバランスを実現したい公認会計士向けのおすすめの転職エージェント

会計士の転職支援サービスにおいては老舗であり、事業会社・コンサル・会計業界と幅広い転職先を求人先として多数保有しているのが特徴です。
求人保有数が多いので転職を実現させるという意味では確度が高いエージェントであり、各種ワークライフバランスを叶える転職においても有用と言えるでしょう。
会計士の場合、転職先業界を広く模索したいというケースが多いですので、一定の業界にとらわれずに多数の実績を持つ同社の利用はメリットが高いと言えるかと思います。
なお、特に事業会社への転職においては実績が高いのはご存じのことと思いますので、事業会社も含めて幅広く検討したいといったケースでは登録しておきたいところです。
当ページはワークライフバランスという視点で会計士の転職と上記のようなエージェントを紹介しましたが、転職エージェントをお探しのケースでは以下の記事もご参考ください。
参考文献
本文に記載したもの以外で以下を参照させていただいております。
- CORE女性の結婚・出産・就業の制約要因と諸対策の効果検証: 家計パネル調査によるワーク・ライフ・バランス分析 樋口美雄他
- 女性の結婚・出産・就業の制約要因と諸対策の効果検証:家計パネル調査によるワーク・ライフ・バランス分析
- ワークライフバランスとは?|アデコ
- 朝日新聞女性役員の内部登用と女性役員の税理士・会計士の割合の多さについて
- 男女共同参画局経済再生における女性の役割とワークライフバランスに関して
マイナビブランドということで、圧倒的な求人数を保有しています。
監査法人のみならず事業会社の経理など幅広い選択肢の中からワークライフバランスに優れた転職先を紹介してもらうことができるでしょう。
特にワークライフバランスを求めて事業会社の経理などへの転職を検討していたのであれば、本記事でも記載しましたが、経理だからワークライフバランスが取れるわけではなく、企業の内情によるところも大きいため、事業会社の求人も多数保持しつつ、情報提供やキャリア相談にも力を入れているマイナビ会計士の利用はとても良いでしょう。
家庭の事情等も考慮してくれる転職先をサーチしたいという方も多いと思いますので、そのような個別性の高い転職先をサーチするケースにおいてはしっかり転職サポートを行てくれるこちらのようなエージェントを利用しましょう。
転職に役立つ情報もたくさん保持しており、応募書類の書き方から面接で聞かれるポイント、面接官の特徴まで丁寧に解説してくれるため、安心して転職活動を進めることができます。
ワークライフバランスといっても人により条件は異なりますが、そうした個別の悩み毎にしっかり転職相談を行ってくれるので、とてもおすすめできるエージェントとなります。
ただし、それほど多くいらっしゃいませんが、会計事務所への転職を希望されるケースにおいては、別途会計事務所に詳しいエージェントを利用した方が情報が濃いケースが多いため、必要に応じて使い分けると良いです。