IPOを経験したい公認会計士の転職と選択肢

ベンチャーのCFOとしてIPOを経験したい会計士の転職

将来ベンチャー企業のCFOとしてIPOを達成したいなど、自分が上場の当事者になりたいという公認会計士の方はそれなりに多くいらっしゃいます。

例えば、現在IPO支援を行うコンサルティングファームなどで働いている方もいらっしゃるかと思いますが、取引先企業を支援するにあたってそもそも自分自身がIPOの経験が無いということに対して疑問を感じるケースもあるようで、IPO支援コンサルからベンチャー企業へと転職し、内部からIPOを達成する経験を持とうとされる方もいらっしゃいます。

支援する立場でIPOに携わる会計士は多いのですが、自分自身が当事者になりたいといった考えを持つ方も比較的多いように感じます。

ここではそういったケースも含めてベンチャーへ転職してIPOを実現したいと考える会計士向けに、ベンチャー企業界隈の転職事情について見ていきたいと思います。

公認会計士の転職市場とベンチャー界隈の転職市況について見ておく

初めにここ数年のベンチャー領域の市況や転職マーケットについてザっと振り返っておきます。

新型コロナの影響で一時ベンチャー界隈の採用需要が落ち込むと同時にIPO件数も大きく減るのではないかと心配されましたが、現在はIPOマーケットは比較的順調であり、CFOを始めとする財務・経理系人材の採用需要は高いため、求人はたくさんある状況となっています。

コロナ後は世界情勢の混乱など様々な問題が起きていますが、それらを考慮しても会計士の転職市場は売り手有利な状況が続いている状況であり、良いIPOベンチャーへの転職は実現可能な状況が続いています。

現在は求人募集という意味ではベンチャー領域は好調であり、様々な選択肢があります。

こうした状況を踏まえてIPO界隈の転職に関してみていきたいと思います。

IPO準備企業に会計士が転職するのに必要な経験やスキル、マインド

経営企画や内部監査室など、求人募集時におけるポジション名は企業により異なりますが、IPO準備に関して中心的な役割を担うポジションとして転職するにあたって必要となる経験やスキルは、当該企業の置かれている状況や求められる業務内容により異なってきますが、基本的には内部体制の構築や監査法人対応も含めた守備面の業務が中心となることから、それらに関連した業務経験があれば転職が可能なケースが多くなっています。
財務諸表の作成やその他の書類の作成、業務フロー構築など含めて経験したことがないような業務が発生するかもしれませんが、財務会計の基本・原理原則をよく理解できている会計士であれば基本的にはなんとかなるものが多いかと思います。

そういった視点では公認会計士として監査法人の時に働いていた経験がそのまま活かせることからマッチしやすい傾向にあります。

CFOとしてIPO準備中のベンチャーへ転職する際はファイナンスの知識が必要となるケースが増加している

ただ、CFOというポジションでの転職を考える際は、守備面に関する業務だけでなく、攻めの領域である資金調達も含めたファイナンスの知見が求められるケースが多くなってくるので、監査経験プラスアルファのスキルが求められるケースが多くなっています。

数年前までは上場準備を中心に行う守備重視のCFOが求められるケースが多かったのですが、近年は積極的に資金調達を行い、M&Aも含めて拡大を模索する攻めの経営が多くなっているので、FASや投資銀行出身者など、ファイナンスに強い方を求める傾向が強くなっています。

そういったことを考えると、CFOを目指したいという希望がある場合は、監査法人の次に一度コンサルへ転職し、経験を積んでおくのが良いかなと個人的には思います。

ただ、これも企業のフェーズによるところがあり、IPOが全然見えていないアーリーステージであれば、ファイナンススキルよりも性格や志向性のマッチ度を重視するベンチャーが多く、一緒に成長していこうといった経営者も多いことから、監査法人で5、6年の経験の会計士がジョインしてCFOと名乗るケースもあります。

まだまだ何もない状態のところからジョインするのでその分IPOできる確率は下がりますが、何もないところから作っていく経験がしたい会計士にとっては良い転職先と言えます。

なお、この場合CFOという肩書になるのかそれともCFO候補なのか、経営企画なのか微妙なところですが、こうしたところからジョインしてCFOとなっているケースもあります。

そういった意味では監査法人での業務経験だけでもなんとかやっていけるケースはあります。

ただ、専門的な実務以外の業務の方が大変だったりしますので、むしろそっちを心配すべきとも言えます。

財務会計とは全く関係ない様々な業務への対応スキル(マインド)がないとスタートアップベンチャーのCFOは厳しい

上記で記載した段階のベンチャーへの転職の場合、管理部門体制・人員が整っていないケースが多いので、CFOが総務や労務、庶務を兼ねてやることも多くあります。

オフィスのレイアウト変更、新しいオフィスへの移転手続き、清掃業者の手配、社員のイザコザへの対応、採用業務、、、などさまざまな雑務が発生し、それをこなす必要性が出てくることも多いです。

一言でいうとバックオフィスの何でも屋になる覚悟も必要であると言えます。そして、いろんな人に協力してもらって進めていくことが多いのでコミュニケーションスキルが重要です。

入社するベンチャーにもよりますが、経理・財務・会計に関する事だけやっていたいという考え方だとうまくいかないケースが多いかと思います。

経営目線で見ていくことも重要なのですが、現実問題として管理部門の実務面で穴ができてしまうことも多いので、作業員としての対応覚悟も持っておきましょう。

こういった当初想定していなかった別業務の部分でのギャップなどで退職される会計士は多いので注意しておきたいところです。
※このあたりは転職先ベンチャーがどのフェーズにあるのかによって変わってきます。上場直前前期くらいで入社するケースともっと前段階で入社するのでも変わってきます。

採用されるには経営者との人柄のマッチ度が重要な要素

CFOは経営者の右腕的な存在ですので慎重に採用するケースが多いです。

ベンチャー経営者は若い方が多いので、CFOも比較的若い方を望まれる(実年齢あるいはマインド等)ケースが多くなっており、また、話しやすい、気が合うなどの感覚的な部分を重視する傾向にもあるので、実務的な能力が高い方が必ずしも採用されるとは限りません。

そのため、採用難易度は結構高めです。

ただ、気の合う経営者と出会えるとすんなり行くケースも多いです。

「公認会計士である」という事実からある程度実務やスキル、知識的なものは信用されているケースは多いので、一緒に頑張っていけそうかどうかといったポイントが見られる傾向にあります。

会計士の中には事業を他人事の目線で見る癖がついている方もいらっしゃり、一緒に頑張っていくような風に感じなかったと評されるケースもあるので、第三者としての目線だけでなく、自分事としてやっていく目線も入れていきましょう。

監査法人でIPO支援等を経験しておくことは前提

公認会計士は多くの方が監査法人からキャリアをスタートさせるかと思いますが、監査法人にいるときからIPO支援に関する業務をしっかり経験しておくことは当たり前ですがIPOベンチャーへ転職するにあたって大きくプラスに働きます。
早期(修了考査後など3年程度)に監査法人から転職してしまう会計士も多いのですが、IPOベンチャーへ転職するという明確な目標があるケースにおいては監査法人にいるうちに可能な範囲でIPO支援に関する業務は経験しておいた方が良いと言えることもあるため、転職は慎重に考えて頂きたいです。

監査法人のいちスタッフとしての業務経験だけでなく、証券会社等の金融機関とやりとりする場に入れるくらいまでやっておくと良いです。また、実際に上場させた経験を持っておくと尚の事良いでしょう。

ただ、Big4などの大手監査法人の場合は希望したように業務経験が積めない、あるいはスピード感的に経験できるまでに時間がかかるケースも多いため、そうした場合は中堅規模の監査法人やIPO支援を専門に行う監査法人へ転職して経験を積むのも良いでしょう。
中堅規模の監査法人の場合、大手監査法人より数年早くインチャージの経験やIPO支援業務のメインどころを担当することができます。実際にBig4監査法人から中堅監査法人に転職し、数年経験を積んだ後(※監査法人勤務の後にコンサルティングファームに行く方も多いです)、ベンチャー企業のCFOとして転職されるケースもあります。

監査法人から監査法人への転職ということであれば、今の市況であれば比較的容易なので自身で転職先を探しても問題なく転職できるでしょう。

ベンチャー企業のCFOとしてIPOに携わりたいとなると、どの監査法人あるいはファームへ転職するかの選択も重要であり、先のキャリアまで視野に入れた情報収集の必要がありますので、会計士に強い転職エージェントに相談しておくことをお勧めします。

どのような経験を積んでおくべきなのか?という視点で転職先・転職先部門を選ぶ必要がありますので、そうしたアドバイスをもとにキャリアプランの相談ができる転職エージェントを選択されるとよろしいかと思います。

会計業界のみならず、ベンチャー企業を始めとする事業会社やそのほかコンサルティングファーム等も視野に入れている場合は注意が必要です。

コンサルティングファームで経験を積んでおくのも有り

先程も記載しましたが、ベンチャー企業のCFOとしてIPOを狙う上で一番無難な経路が監査法人からコンサルティング会社などを経てベンチャー企業のCFOへと転職するケースです。

コンサルティングファームでは顧問先(投資先)の経営陣と密にコミュニケーションを取って業務を進めていくことになります。

また、経営状態がおもわしくない先があればハンズオンで顧問先(投資先)の経営を行っていくこともあり、非常に濃密な経験を積むことができるでしょう。

ファイナンスに関する知識などの具体的なスキル面に関してだけでない部分での経験も大きく、監査法人の時よりもビジネスに近い現場で仕事ができるため、多くのビジネスモデルに触れることができるのも魅力です。

このような経験を積んでいくことで、人脈を形成することもできますし、自身の会社や経営者の見る目も養われるため、自身がIPOに携わるときの助けになるのはもちろん、そもそもどの会社に入るべきか?という点でも見る目が養われます。

実際にベンチャーで実務をしていく際にはよくわからないことも出てきますが、ある程度人脈があると困ったときに質問しやすかったりするのでコンサルで経験積むのも悪くないでしょう。

実務面のスキルアップとしても当然有効なのですが、やはり監査よりも近い目線で実態を見ることができるため、企業を見る目が養われるのも転職する上で大きなポイントとなるでしょう。

こうした経路をたどっている方が一番失敗が少ないのではないかなと感じています。

公認会計士のコンサルティングファームへの転職

なお、監査法人からコンサルティングファーム等に転職するに際しては会計士の転職に精通したMS-Japanや金融系に強いコトラ等をうまく組み合わせて利用すると良いかと思います。

ベンチャーへ転職してみんなうまくいっているのか?

会計士を求めるベンチャー企業は多いので、転職すること自体はそれほど難しくありません。

ただし、転職した後もうまくいっているケースとなると半々ぐらいではないでしょうか。

スキル面でうまくいかないケースはあまりないが守備よりも攻めを重視する場合は不向きなケースもある

先程記載した事項と少し重なりますが、ベンチャーCFOとして求められる役割は企業により異なりますが、経理の業務フロー設計を始めとした管理部門体制の整備、証券会社・監査法人の対応など含めて守備面の業務は監査法人時代の経験がそのまま活かせるため、ここを重視して採用募集するケースでは活躍する傾向にあります。証券会社、監査法人側の指導の意図なども把握しているため、対応にそれほど苦労はしないかと思います。

スキルという点で見てみると、一概に年数で測れるものではありませんが監査法人で5~7年程度勤務されている方の場合は転職してうまくやれているように感じます。

実際に業務を行っていてよくわからないことというのは多数発生しているものと思いますが、調べたり聞いたりしてとにかくなんとかするという意味ではやれている人が多いかと思います。

うまくいかないケースとしては、資金調達を始めとして攻めが重視されるCFOが求められるケースでしょう。

IPO後も見据えて資金調達等の攻めの部分やM&Aを重視されることもありますが、この場合仮に転職できたとしても監査法人経験だけですと弱いため、うまくいかないこともあります。

IPO準備を中心に行うことが目的で入社してこうなることはそんなにないとは思いますが、もしそうなるのであれば投資銀行やコンサル出身者の方が適合するポジションであり、会計士はどちらかというと守備力UP業務に向いているのでミスマッチとなることもあります。

役割はしっかり確認して入社しましょう。

創業者など他の経営陣との不仲、事業のとん挫などでIPOどころではなくなるケースも多い

うまくいかないケースで一番多いのが入社したベンチャーが傾いてしまうケースと人間関係です。

創業者との人間関係の構築でうまくいかないケース、業績等の悪化によりIPOを断念せざるをえなくなるケース、社内の人間関係で苦労するケース、そもそも会社を見る目がなかったなど様々です。

創業者との人間関係の悪化という点においては、経営方針の食い違いや価値観の相違など様々です。監査法人の経験しかない会計士の場合ですと第三者目線で物事を見る癖がついてしまっているケースもあり、冷静さを保つ意味で第三者目線でアドバイスをしているつもりだったのが、他人事のようにとられてしまい、経営者とうまくいかなくなるケースもあります。

また、癖のある経営者も多いので、そうした人間関係でうまくいかないケースが多いように感じます。IPOを果たすには、結局のところ、経営者・創業者のビジョンに共感できるかどうか、経営者との性格の相性が良いかどうかとなります。

スキルも大事ですが、ここが一番重要なように感じています。そのためヒューマンスキルやマインドセットも重要になるでしょう。

その他IPO関連の転職で失敗するケースとして考えられるのが、そもそもそれほど魅力的なビジネスをやっている企業ではなかったというケースもあります。

監査法人の経験しか無い場合、ビジネスモデルに触れてきた経験が圧倒的にかけており、そもそも企業選びに失敗してしまったというケースです。ベンチャー企業に入社する前段階では投資家目線での判断も重要になりますので、そうしたスキルを磨いてから転職しても遅くはないでしょう。
または、そのベンチャーがやっている事業を好きになれるかどうかという軸でもいいかと思います。

監査法人からベンチャーのCFOへと転職するケースでは、スキル不足でうまくいかないケースももちろんありますが、それよりも通常の転職と同様に人間関係がネックになるケースも多いため、経営陣の人柄含めた情報収集が重要となります。

なかなか自分で情報収集できないという方は、エージェントの活用も検討してみてください。内情の部分に加えてベンチャーでの具体的なキャリアパスや働き方、キャリア事例なんかも知ることができますので、個人的には転職エージェントに相談してみると良いと思っています。

この場合、ベンチャー企業への転職に強いというよりは、できれば会計士のキャリアに詳しいエージェントさんに話を聞いておいた方が良いかと思います。

公認会計士の転職エージェント・転職サイトを紹介!

どのような選択をとるにせよこの先のキャリアのことも考えて人脈構築なども忘れずにおこなうと良いでしょう。

ベンチャー企業への転職に関する情報をもっと知りたいという方や監査法人に現在勤務していてベンチャー以外のキャリアにも興味があるという方は以下の記事もご参照ください。

監査法人から転職したい会計士が活躍できる転職先は?
ベンチャー企業に転職する公認会計士が増えているのはなぜ?

転職エージェントの利用を検討される場合はMS-Japanの利用をまずは検討してみるとよろしいのではないかと考えます。事業会社の求人が多いため、会計士向けのIPO関連の求人も集まっている可能性は考えられます。

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樋口 智大株式会社インテグラルベース 代表取締役
公認会計士・税理士・経理などの士業・管理部門の人材紹介を行う人材紹介会社に勤務し、転職エージェントや会計専門メディアの事業の立ち上げを経験。その後、株式会社インテグラルベースを創業。現在は転職・採用・人事に係わるコンサルティングや求人サイトの運営を行っています。 士業JOBでは、これまで培った人脈と10年弱に及ぶ転職や採用に関する業務経験・実績を活かして転職に役立つ情報の配信を行っている他、多数の人材紹介会社とも協業し、最新の情報をブラッシュアップしながら配信を行っています。また、行政書士として事務所を開設しており、自身も士業として活動しております。 執筆者・監修者・編集者情報へ