20代の税理士有資格者は税理士全体の僅か0.6%程(日税連資料より)と言われており、当然転職市場でお目にかかることはほとんどありません。
令和6年(2024年)3月末時点の税理士登録者数は全国で81,280人いらっしゃいますので、そのうちの0.6%というとだいたい488人程度であることがわかります。この数字から、いかに20代税理士が希少人材であるかがわかります。
実際に転職支援の現場にいても税理士資格者という視点で見ると20代の方とはなかなかお会いすることはありません。
また、昨今は若手の税理士志願者減少により必然的に20代の税理士科目合格者もかなり少なくなっております。実際に税理士試験受験者の数値を見ても40代がメインボリュームとなっており、各会計事務所のメンバーの年代構成が悪くなってきています。若手を欲する会計事務所は多く、採用のハードルも下げていますがそれでも採用できず苦戦している状況です。
そのため、20代で税理士資格を有する方であれば基本的に転職先に困ることはなく(会計事務所業界であれば)、税理士科目合格者やこれから資格取得を目指す実務未経験者であっても20代であれば転職が比較的しやすい状況となっています。
同じような理由で、20代の税理士科目合格者もしっかりとした需要があります。
ここではそんな20代の税理士あるいは税理士科目合格者、無資格者、未経験者など対象ごとに転職について見ていきたいと思います。
※税理士の転職市場は売り手有利ではあるのですが、社会情勢・国際情勢の不安定化により一定の業界を対象としている会計事務所等では採用状況が安定しないケースもあります。概ねの全体感としてご覧いただけましたら幸いです。
目次
20代税理士はポテンシャルを高く評価されるのでキャリア・転職先を幅広く検討できる
20代で税理士資格を有するというそのポテンシャルの高さから会計事務所業界での転職において門前払いで不採用となるケースはほとんどないといえるでしょう。
これまで税理士試験の勉強が中心で職歴が浅いという方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、そのようなケースでも将来性を見込み採用に至るケースが大半です。
キャリアを幅広く検討することが可能です。
ただし、30代中盤以降になってくると資格の有無だけではなくどのような業務経験を有してきたかが評価軸のメインになってくるので、将来的なことも踏まえると転職がしやすい20代のうちに一定の経験を積んでおく必要があるでしょう。
そのため、転職がしやすくいろいろなところから声がかかるからといって油断するのではなく、先のキャリアまで含めてどういった可能性があるのかといったことを知り、どこに向かって進んでいくかを考えていく必要があります。
法人向けなのか対個人向けにサービスを提供したいのか、グローバルに活躍したいのか、資産税などにチャレンジしていきたいのか等様々な可能性を視野に入れてチャレンジし、経験を有していくことを考える必要があります。
資格だけ持っていてなんの専門性も無い税理士になってしまうと将来的にキャリアが行き詰ってしまうケースも考えられるため、20代のうちに税理士としてどのようなキャリアが考えられるのか知っておくことが重要でしょう。
税理士のキャリアパス・転職先フィールドなどについては以下の記事にて解説しているので細かくはそちらをご覧ください。
Big4税理士法人に勤務する20代税理士は転職先に困るケースも
また、同じ20代税理士でも例えばBig4税理士法人に勤務する税理士とその他に勤務する20代税理士とでは違いも有り、例えばBig4税理士法人勤務の場合は20代後半になっていれば既に年収が1000万円を超えているケースもあり、そうなると転職先において同水準の給与をもらえる勤務先がBig4以外では皆無という状況になり、待遇面で転職に苦戦するケースもあります。
Big4税理士法人より高い年収がもらえるのは一部のコンサルと事業会社だけなので、年収ダウン許容しないと転職ができません。
ケースによりますが、先のことも考えると転職による一時の年収ダウンは許容して別途の経験を積んだ方が良い場合もあるので、目先の収入だけでなく、広くキャリアを検討することも重要です。
例えば独立を視野に入れるケースではBig4からいきなり独立するよりも、適した会計事務所やコンサルティング会社へ転職し業務経験をしておくことでスムーズな立ち上げに移行できるケースもあります。
特に中小経営者の相手をするのは高度な税務を処理するのとはまた違った難しさもあるので、先々どのようなことをするのかにもよりますが、ご自身が知らないこともたくさんあることを念頭に広い視野で模索してみると良いかと思います。
一方で、無意味な転職をして単に待遇ダウンしてしまったというケースもあるので、どこに転職するかが非常に重要になってくるので、必ずエージェントにも相談しておくことをおすすめします。広いキャリアパスを見ているので、アドバイスとしては役立つものをもらえるケースも多くあります。
Big4税理士法人から転職というケースでは以下もご参考ください。
待遇面をそこまで気にしない税理士やBig4以外に勤務する20代税理士は転職先をかなり選べる
年収などの待遇というよりは経験値を重視したいと考える場合の転職であれば、基本的に20代税理士資格者であればこれまでの経験値がドンピシャに当てはまっていなくても希望する会計事務所への転職は叶えやすいです。
先ほどの例とは逆に、一定度の対策は必要となりますが、中小規模の会計事務所からBig4税理士法人へ転職することも可能です。
専門特化型の会計事務所へ転職することも可能です。
キャリアの選択肢がかなり広く、可能性は無限大です。
面接で落ちる人は多いので油断大敵
20代税理士資格者において、書類選考で門前払いというケースはあまり無いのですが、面接で落ちる方は一定度います。
税務の知識というよりは、コミュニケーションやビジネスマナーがあまりにも酷いということで不採用になる例を何度か見たことがあります。
税理士試験勉強ばかりで社会人経験が浅いケースにおいて、「年齢に比して幼い」といった印象を相手に与えてしまうケースがある他、最低限の身だしなみが出来ていない等が要因で悪印象を与えてしまうケースもあります。
税理士は技術職のような形で確かに税務スキルはかなり大事なのですが、多くの事務所が経営者とコミュニケーションしてもらう必要のある業務を必要としていますので、最低限の注意は持って面接に臨む必要があります。
このあたりが苦手な人は素直に転職支援会社のお世話になることをおすすめします。
昨今はヒュープロを利用される方が増えていますが、面接対策などの苦手なことをサポートしてもらえるサービスは多いので、こうしたサービスの利用も検討してみてください。HUPROでは面接対策後の選考通過率30%UPなどのデータも公開されておりますが、こうした対策をやるかやらないかで大きく差が出ることがわかります。
その他では税理士業界では知名度が高いのでご存じかとは思いますが、レックスアドバイザーズやMS-Japanに相談してみるのもよろしいかと思います。
このあたりのエージェントに関することは話が少し脱線してしまうので無資格者などの利用も含めその他のケースは別途ページにて紹介します。
20代税理士科目合格者もキャリアと勉強できる環境の双方を手に入れやすい
若手が欲しいという税理士法人・会計事務所は多いため、20代税理士科目合格者の方も転職はしやすいです。
ただ、上記で記載した通りポテンシャルが評価されるのは若いうちだけですので、税理士試験勉強も大事なのですが、業務経験を有しておくことも非常に重要です。
昔に比べると業務経験も勉強時間も両方確保できる会計事務所の転職先というのは増えており、税理士試験勉強中の方にとっては良い状況なのではないかと考えられます。
確定申告・法人決算期などの一定の繁忙期を除いては基本的に残業等もカットされており、また、基本的な法人税務申告等の業務経験やスポットで相続等に携われる事務所等多数あります。
会計事務所によっては条件はありますが予備校通学補助があったりするなど手厚いところもあります。
また、同じ税理士試験勉強仲間がいる会計事務所で働くことでモチベーションUPにも繋がりますし、この先の人生の仲間を増やすこともできますので、適切な会計事務所へ勤務することをおすすめします。
求人媒体などでは「税理士試験受験生応援事務所」といった形で表記されているケースもありますが、内情まで詳しく知りたいというケースではエージェントや転職サービスを有効活用しましょう。
この辺りの求人の探し方などは後ほどご案内します。
20代無資格(簿記2級レベル)の未経験者でも税理士業界へ転職可能
20代でまだ税理士試験勉強を始めていないけど興味を持った、という方も結構多くいらっしゃいます。
営業から事務系職種へ転職したいと思ったけど、なかなか経理等の職に就くことができず、いろいろ情報収集していった結果会計事務所に辿り着いたという方も多くいらっしゃいます。
事務系職種へチャレンジしたいなら会計事務所を入り口にするのも有りな選択肢です。
ただ、最低でも簿記2級ぐらいは取得しておきたいところです。3か月程度勉強すれば働きながらでも十分合格できます。
なお、さすがに20代を超えて30代以上になってくると全くの未経験(畑違いの職種)から採用されるケースは少ないです。ただ、不可能ということではなく、ハローワークなどでも募集はあるので、うまく良い事務所と巡り合えば良いキャリアを積んでいくことも可能です。
20代税理士・科目合格者の転職先はどういったところがあるのか?
20代であればBig4税理士法人などの大手税理士法人はもちろん中小税理士法人、専門特化型会計事務所と幅広く転職先を選んでいくことが可能です。
もっとも、Big4税理士法人の場合は英語力が必要となる他、税理士試験3科目以上(2科目で採用されたケースもあります)など応募要件は厳しいのですが、いずれにせよ選択肢は広いです。
ただ、どのようなところにも転職は可能な一方で、大手・中小などの規模感ごとのメリット・デメリットや専門特化型会計事務所へ転職した際も同様にキャリア上の良い点悪い点があります。
そうしたことを知っておくことも重要です。
大手税理士法人へ転職した場合
- 給与が高い
- 中小規模の会計事務所では経験できない業務経験が積める
- 会計業界以外への転職の際にも評価が受けやすい
- 業務範囲が限定される(幅が狭い)
- 忙しい
大手に行った方が良いと考える人も多いのですが、必ずしもそうとは限らないです。
確かに給与は比較的高く安定していますが、その分忙しく、税理士試験勉強の時間が取り難い可能性もあります。
また、案件規模が大きく、大手じゃないと経験できない業務もたくさんある一方で、必然的に分業体制となるので、経験できる業務の幅は狭くなりがちです。
ただ、例えば将来国際税務をやりたいといったケースがあるのであればBig4税理士法人での経験は必須と言えますので、将来何がしたいか等により決定していくのが良いと言えます。
中小規模の会計事務所
- 採用要件が低いため転職はしやすい傾向
- ワークライフバランスが取りやすい事務所も多く勉強時間確保が可能
- 一般的な税理士の業務経験が積みやすい
- 高度で複雑な税務経験は積みにくい
- 入る事務所を間違える、所長との相性が悪いと超絶ブラックになる
中小規模の会計事務所の方が残業は少なく、税理士試験との両立が目指しやすい環境を備えているところは多いかもしれません。
また、採用のハードルもそこまで高くないので、面接対策などもそこまで頑張らなくても転職可能というのもポイントかと思います。
基本的に世の中の大半が中小企業・個人事業主であることを考えると、独立を視野に入れているのであればこうした中小規模の事務所での税理士業務経験を積んでおくことも必要となります。
注意点としては、全ての中小規模の会計事務所がこうである、というわけではありません。
各事務所ごとに異なるのが実情であり、これはあくまで傾向となります。
入る事務所を間違えると面倒なことになるのでこの辺り気になる方はブラック会計事務所について解説している記事もご参考ください。
所長や所属する所員との相性の問題は個々人の性格によるところもあるので一概に言えませんが、働き方や制度的にブラックな会計事務所は基本的には内部事情について情報取得の上転職先を決定していけば避けることが可能です。
専門特化型会計事務所
- 専門特化するから当該領域にスペシャリストになれる
- 分野にもよるが給与は高い傾向
- 一般的な税理士としての業務に戻り難くなる
- キャリアの幅は狭まる
基本的に税理士試験勉強中という状況であれば一般的な法人税務等を行っている会計事務所で修業+勉強をした方がリスクは少ないです。
ただ、ある程度進むべき道が心の中で決まっているというケースなどでは専門特化型もありです。
専門特化型の会計事務所というと資産税特化型、SPC特化型、国際税務特化型など業務内容に特化した会計事務所も有れば、医療業界、飲食業界、スポーツ業界など各種業界に特化した会計事務所も存在しています。
昨今人気だったのは資産税(相続・事業承継)ですが、伸びしろを考えると今後は国際税務なども有りでしょう。
各特化したフィールドごとにおいてそれぞれの住み分け(例えば資産税といっても個人・法人・富裕層・申告中心なのかコンサル型なのか等)があり、それぞれごとにおけるキャリアパスも異なってきます。
こうした事項を知ることも重要です。
ここでは詳しく解説しませんが、基本的には最新の業界トレンドをエージェントや業界通の方から転職したいタイミングで仕入れた方が良いでしょう。
本サイトにも特化型事務所への転職などを解説した記事はありますが、昨今の社会情勢の変化も激しく、その移り変わりが急な傾向にあり、短期間でトレンドが大きく変わるため、都度都度確認すべきと言えます。
また、どの領域に関しても細かい採用要件についてはその時々で変わるため、実際に応募する段になった際に確認する必要はありますが、現状は昔に比べると採用要件は緩くなってきているので比較的チャレンジしやすい状況と言えます。
税理士に詳しい転職エージェントからキャリアパスについて詳しく聞いておくことで先々のキャリアに幅を持たせられる
税理士の場合求人広告サイトを利用して転職先をサーチする方も多いのですが、キャリアについて幅広く検討し情報を得る必要性があると感じるケースがあれば転職エージェントを利用するのも手です。
年間数百名の税理士や会計事務所スタッフの転職支援を行っているので、各税理士のキャリアパスに精通しており、また、どういった会計事務所が働きやすいのか等も実態をもって把握していることから参考になる意見を聞くことができます。
利用に際しては、あなたの現在の状況(税理士試験科目の合格状況等)や希望などに応じて転職エージェント選びをすることでミスマッチが減らせるかと思います。
ほとんどいませんが、20代で税理士有資格者であれば、正直どこの税理士向けの転職エージェントに相談しても手厚い対応をしてもらうことができるかなと思いますので好きなところで相談すればいいのかなと思います。様々なキャリアの選択肢について模索することができます。
会計業界の転職サービスとして一定度以上名のしれたところであれば求人案件も会計業界において幅広く取り揃えているので、様々な希望にこたえることが可能かと思います。
一方で、税理士試験勉強を始めたばかりといったケースや科目合格者が税理士試験勉強に適した会計事務所の求人を探したいんだと言った形で、キャリアについての相談もしたいがそれ以上にまずはしっかり勉強できる環境に身を置きたいというケースであれば最初の方で記載したヒュープロの利用が良いでしょう。
20代の税理士試験勉強中の方の転職支援実績が豊富で、そうした事務所の求人も多い他、素早くマッチする求人が見つけられるのが特徴なので、実績が高くなってきています。
業界未経験者への対応もしっかり行ってくれているので、経験が浅い方の利用にも適していると言えます(有資格者の方の利用でももちろんおすすめです)。
一般的な税理士向け転職エージェントですと税理士資格者や科目合格者でも2科目以上合格している方を好まれる傾向にあり、これから税理士試験勉強に本格的に取り組んでいくという層(1科目やまだ1科目も合格していないなど)の支援はそこまで熱心に転職支援してくれないケースもあるため、ご注意ください。
その他、あまり希望者は多くありませんが、事業会社へのキャリアも視野に入れたいケースであれば、会計業界から事業会社への転職支援も実績が豊富で利用者が多いMS-Japanの利用も検討すると良いでしょう。
税理士業界では最も利用者が多いエージェントの1つなので説明不要かと思いますが、同社は会計業界に強いのは当然ですが、他のエージェントとの大きな違いとして、事業会社への転職にも強みがあることから会計事務所だけでなく事業会社まで含めて転職先を検討したいケースでは利用が必須と言えるでしょう。
特にBig4税理士法人の次の転職先となってくると大手企業の経理財務や税務室のポジションを検討する必要も出てくるケースが多いので、そういった場合では非常に求人案件も多いことから利用した方が良いと考えられます。
後は、税理士業界での転職しか考えていないというケースにおいて、1つのエージェントあるいは求人サイトで全ての求人を網羅するのが難しい業界となっており、各転職会社ごとで懇意にしている事務所が違ったりして情報に差が出ることがあるのも特徴なので、可能であれば2つくらいは登録しておく方が安全でしょう(Big4税理士法人含めて大手税理士法人に転職したい場合は、きちんとしたエージェントであればどこに登録しても求人はあり、同じような話が聞けます)。
このページはエージェントの紹介がメインでは無いので、転職エージェントに興味のある方は、税理士・会計事務所の転職エージェントについて解説している記事をご覧ください。
税理士資格者はもちろん未経験でこれから税理士を目指す20代の方も十分会計事務所への転職は可能
高齢化が著しい税理士業界において20代の働き手は希少です。
そのため、これから税理士を目指すといった20代未経験者にもチャンスがある状況です。
会計・税務に関する知識だけが求められているわけではなく、例えば事務所によっては営業経験を持った方を評価するところもあるので、異分野からの転職も可能なケースはあります。
20代税理士資格者はもちろんのこと科目合格者やこれから税理士業界を目指すという簿記2級レベルの経験の浅い20代の方もチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
なお、簿記2級レベルの方は日商簿記2級で会計事務所へ転職できますか?の記事も参考にしていただければと思います。