2023年の会計事務所・税理士法人の転職市場はどうなる?

2023年の税理士業界の転職市場について見ていきたいと思います。

まず、過去を振り返ってみると、2020年までの会計事務所の転職マーケットは超売り手市場が続き、税理士資格者はもちろんのこと未経験者でこれから税理士を目指すといった方の転職も比較的容易な状況が続いていました。
2020年以降もこの傾向は続いていきそうだと考えられていました。

ただ、その後新型コロナウイルスや世界情勢の混乱が生じて、それ以降はやや採用意欲は低くなっている会計事務所も増えており、これまでのようにどんどん人を採っていくといったスタンスではなくなりつつあり、それなりに厳選する動きも出てきています。

50代、60代の転職も多い業界ですが、一定の経験やスキルをもった方であれば依然として需要は高いものの、スキル・経験の少ない50代以上の方はやや転職が厳しい状況になっていくことが懸念としてはあります。

一方で、20代・30代若手は採用需要が高い状況が続いています。
税理士試験受験者数・合格者数も若手は少ない状況が続いており、税理士試験受験者のボリュームゾーンは40代以上という状況からわかる通り、税理士を目指す若手が減少していることから、20代や30代前半若手の会計事務所業界の転職市場は一応売り手市場であると考えられます。ここ数回の税理士試験は若手の受験者は回復傾向にありますが、それでもまだまだ少ないため、若手はチャンスの時期と言えます。

そのため、2023年も若手(20代はもちろん30代は会計業界では若手です)は比較的転職しやすい状況であると言えるでしょう。

ただ、転職しやすくなっているものの、超売り手市場の頃に厳選せずに採用した結果ミスマッチによる早期退職も増加したことから、面接のハードル自体は超売り手市場だった頃と比べると上がっています。

こうしたミスマッチを防ぐために採用基準をしっかり設けたり、面接時に税理士を目指す動機や熱意を確認するといったことを前よりもしっかり行うようになったため、このあたりにしっかり答えられず不採用に至るケースは増えています。

しかしながらこうしたミスマッチを防ぐ意識は悪いことばかりではなく、採用後は人材が離職しないよう事務所内部の体制(人事制度や設備面含)を整えたり、ミスマッチを防ぐために自事務所の特徴に関して情報発信をしたりする傾向にあるので、求職者側・求人側お互いにとって良い方向に進んでいるように感じます。

採用をすること自体もさることながら、定着や戦力化という部分において改善がなされていくような状況に見受けられました。

そして、コロナ禍の影響により急ピッチに事務所内の環境が整えられていった(IT・デジタル化などの環境整備等)ところも多く、結果的に多くの事務所が働きやすい環境が出来つつある(作る意識を持ち始めた)状況です。

そのため、転職により、より良い環境に身を置ける可能性は高まっていると言えます。

2023年以降会計事務所ごとの格差は激しくなっていく

ただ、こうした状況でも変化しない会計事務所もそれなりに多くあり、顧客対応はもちろんのこと、所員に対する各種対応もいい加減なままの会計事務所も多いです。

在宅・リモートワーク環境への対応にも差が出てきており、そうした部分の不満から転職者が出るケースも多くあり、各事務所ごとで待遇(年収というよりは環境)で差は出ています。特に小規模事務所においては傾向が顕著です。

上記の在宅ワーク体制の構築などはあくまで一例ですが、変化を嫌い、変わらない事務所もそれなりにあるので転職にあたっては注意が必要です。

会計業界での転職をお考えの方にとっては、自身が希望する環境へ転職するにあたりどのようになっていくのか気になるところかと思いますので、これら過去と直近の状況も踏まえつつ2023年の会計事務所の採用事情について考えていきたいと思います。

2023年も会計事務所業界は売り手市場だが採用要件は高くなってきている

人手不足の会計事務所が多いことは明らかなので、以前の超売り手市場ほどではありませんが、2023年もどちらかと言えば転職市場は売り手有利な状況が続くと言えるでしょう。

20代・30代の若手を欲する会計事務所はまだまだ多く、会計税務や経理関係の仕事が未経験でも応募可(最低限簿記2級以上は必須だが)とする求人は引き続きそれなりに有ることから、それなりにハードルはあるものの転職はしやすい状況にあると考えても良いと思います。

経験者採用という点では非常に需要が高い状況で、税理士資格者はもちろんですが、科目合格者(税理士試験勉強中)の採用は活発です。

ただし、以前は税理士資格者あるいは科目合格者であれば誰でも採用するといったぐらいに採用要件が緩くなっている時期もあったのですが、昨今はコミュニケーション能力が最低限あるか、どのような経験をしてきているかはしっかりチェックしてくるところが大半なので、ある程度面接対策はしておいた方が良いかなと感じる事例が増えています。

税理士試験受験生という視点で見ると、求人自体は多数ありますが、税理士試験受験生が転職時に注意する点としては、「税理士試験受験を応援しています!」というアピールをする会計事務所へ転職するにあたって、その事務所が本当の意味で応援してくれるところなのかどうかといったことを見極めていく必要はあるなと感じるところです。

応援の中身が、例えば試験勉強の時間が確保できるように配慮してくれるというところもあれば、本当にただ応援するだけ(頑張れよという雰囲気出す)っていう事務所も正直あります。

しっかり事前にどんな事務所か把握したうえで転職するようにしましょう。

会計事務所の転職マーケットは売り手市場だがスキル重視の傾向も

冒頭で記載した通り、若手の未経験者の採用も行ってはいますが、2022年以降の転職マーケットにおいて、特にコロナ禍以降は実務経験者(即戦力)を求める傾向に求人がシフトしてきたかなという印象もあります。

コロナ前は未経験でも若い人が欲しい(今でも若い人は欲しいですが)というオーダーがかなり多かったのですが、最近は未経験でも検討するけどそれより実務経験者を優先したいという感じです。

そのため、一定以上の年齢の未経験者(30代税理士試験勉強中等)は転職がし難くなった(超売り手の時と比べれば)可能性があります。

ただ、だからといって転職市場が悪いということは無く、むしろ昔と比べれば十分売り手市場と言えるでしょう。

2014年から2020年のコロナまでの間が異常な売り手市場だったのであり、2023年以降は普通の売り手市場くらいで推移していくだろうと考えられます。

不調の会計事務所もある

コロナ禍を含めて世界情勢の影響で打撃を受けている業界を顧問先とする会計事務所等では採用が少なくなっているので、領域によっては売り手市場とはいえない部分もあります。
そうした領域を避ければ採用自体は活発と言えます。

後は、採用自体は積極的に行っているが、全ての会計事務所が業務拡大による積極的な意味での採用強化ということではありません。

儲かっている会計事務所も結構あるのですが、景気が良くてどんどん採用するというよりは、単純に人手不足を要因とする採用強化という側面も強く、次代の流れについていけずに離職者が多くでている会計事務所などでは悪い意味で採用強化されているので見極めが必要です。

そのため、今の事務所が人手不足で労働の忙しさを緩和させたいという理由で転職するのであれば、しっかり転職先候補となる事務所の現在の状況を把握しないと転職した意味が無いという状況になりかねません。

冒頭付近で記載した通り、各会計事務所の環境に大きな差が出始めているので、所長の方針や人柄などを確認の上転職することが重要となってくるでしょう。

20代、30代前半の税理士・税理士科目合格者はどこにでも転職できるというくらいハードルは低い

コロナ禍では一時求人数が激減しましたが、それ以降は会計事務所業界・事業会社双方ともに求人は回復し、売り手市場となっています。

少々オーバーな記載の仕方になってしまいますが、一部の低調な業界をクライアントにしている会計事務所を除けば、感覚的に20代税理士(科目含)であればどこにでも転職できるのではないかと感じるくらい売り手有利な状況は続いていると言えます。

採用のハードルが比較的高いBig4税理士法人等でも2科目前後の合格でも採用されるケースはあり、超売り手市場であった2020年までと比べると多少ハードルは上がったものの、ある程度若くて意欲のある税理士・税理士科目合格者の方であれば希望を叶えやすい転職市場となっています。

冒頭に記載した通り、税理士を目指す若者が減少している点等をふまえ、各会計事務所では少々スキルが足りなくても育てていくという考えを持っているところも増えたので、意欲・やる気次第ではあらゆる会計事務所への転職を実現することが可能でしょう。

そのため、キャリアアップ・キャリアを伸ばしていきたいとお考えの方にとってはとても良い転職市況がやってきており、引き続き採用状況は好調となると想定されます。

また、ワークライフバランスを始めとして職員が働きやすい環境づくりに取り組む会計事務所も増えているため、長く安定して働ける職場を探している方にも徐々に良い傾向となってきております。

ただ、良くはなってきているものの、ご存知の通り会計業界はまだまだレガシーな業界であり、相変わらず古い考えを持った会計事務所もたくさんあります。

そうした事務所に転職してしまってはキャリアアップどころか働く環境もあまり良いものとは言えませんので、情報収集はしっかり行うようにしてください。
大手税理士法人や中堅規模以上の会計事務所への転職をお考えであれば大きな問題はありませんが、10名未満の小規模会計事務所への転職の場合は特に注意しましょう。

心配な方は会計業界に精通した税理士に強い転職エージェントに相談するのも一つの手です。

数多くの税理士の転職支援を行っており、繋がりも多いことから、こうしたところからしっかり情報を収集しておけばミスマッチの可能性は軽減できます。

また、最近では膨大なデータとAIを活用してあなたにマッチする会計事務所を紹介してくれる新しい転職サービスも登場しておりますので、そうしたものを活用することでミスマッチが防げるようにもなってきているようです。
下記の記事でそうしたものも含め、会計事務所の転職サービスを紹介しているので興味のある方はご確認ください。

税理士の転職サイト・エージェントを紹介!

会計事務所に転職する上で求められるスキルが変わっていく可能性はある

近年AIやRPAの活用が進んでおり、所謂単純作業と呼ばれる事務作業は機械化が進んでいます。
2023年以降の会計事務所業界は、より一層自動化・機械化の流れ(テクノロジーを活かして業務を行っていくこと)が進んでいくことと思います。

会計業界は比較的テクノロジーに疎い傾向にあり、まだまだ課題は多いものの、記帳代行業務等の単純作業は各会計ソフトメーカーが有効なツールを提供していることから、2017年あたりから効率化が進んでいます。

一般的な中小規模の会計事務所が行っている業務の中には、ただの単純事務作業というものも多く、もう少し時代が進めばそれら業務は本当の意味での自動化もできるかなと思いますので、キャリアという視点を考えた際には常にプラスアルファを目指していくのがよろしいかと思います。
※自動化はあくまで今後の話であり、今すぐどうこうなるのは考えにくいです。今のところクラウド会計とかRPAなどの各種ツール使っても完全自動化は無理だなと思います。効率化はできますが。

M&Aにより巨大化する会計事務所が増えていることからわかる方向性

また、会計業界はM&Aが盛んにおこなわれており、統合し、総合化して大きくなる会計事務所が増えています。

どうしてこうなるのかというと、世の中の事業そのものが複雑化していること、商圏がグローバル化し複雑になっていることなどが要因の一つとしてあり、様々な角度で税務会計も対応する必要があることから、ある程度大型化せざるを得ない、あるいは大型化して総合的に対応できるようにすることで効率的に支援できるというような状況も生まれています。

そうした中で、各税理士は総合的に広く一般的なスキルを身に着けてコンサルティング的な立ち位置に行くという選択肢も考えられますが、どちらかというと各々が各分野のスペシャリストになり、それらの力を合わせて総合的に対処していくというようなキャリアの傾向も見て取れます。

また、そうしたところから、総合化とは逆に少数精鋭で高度な専門サービスを展開する会計事務所も台頭してきており、価値の高いサービスを展開する会計事務所が増えてきている印象です。

会計事務所の経営という視点で見ると、総合化するか、超特化するかといった選択になりそうです。

一方で、個人のキャリアという視点で見ると、専門性は重要視され、各々連携して業務にあたる必要性は増しそうなので、コミュニケーションスキルなどは重要になってくると言えるかと思います。

これらはあくまで一例でこの先どうなっていくかは正直わからないのですが、昨今の業界のトレンドなども知っておくための情報収集もしておくのが良いでしょう。

徐々にではありますが、会計業界でも変化が訪れてきております。

最近では税理士資格者ではない人材を採用する会計事務所も増えており、ITリテラシー等が高い人材を重宝する会計事務所も出てきており、こうしたITで自動化できる作業は別の人間が行い、税理士はその専門知識を活かした高度な業務を行っていく傾向の事務所もあります。

そのため、単に資格を持っているというだけではこの先は厳しくなっていくことは間違いありません。

今すぐに状況が一変してしまうということはないと思いますが、先のことを見据えてより税理士としてレベルの高い業務ができるようになるにはどのような会計事務所で働けば良いのか?しっかり考えると良いでしょう。

幸い現在は会計事務所の転職市場は超売り手市場であり、高度な業務にチャレンジできる環境へと転職するにはチャンスの時期となっております。転職を検討しているという方は、転職エージェントや活躍している身近な先輩等から意見を伺い、キャリアについて考えてみると良いでしょう。

また、現状実務を行っていて、AIのレベルが高いとは思えないので、現状の心配はないと思いますが、進化や発展のスピードは速くなっているので油断せずにスキルアップ思考は常に持っていたいところです。

会計事務所の転職マーケットは売り手だが今後の変化に気をつけよう

今のところ、一般企業と比べると会計業界の転職市場は売り手市場と言えるため、転職自体は比較的しやすい状況が続きそうです。

しかしこれまで述べてきたように、会計業界で求められるスキルが変わっていく傾向が見えてきており、単に事務所に籠って事務作業だけしていたいとお考えの方には逆に厳しくなっていくでしょう。

税理士を目指した方にお話を伺うと、営業がやりたくなかったから税理士を目指した、という方が一定数いるのですが、今後は対人業務(対面あるいはWebを通じての)は避けて通れなくなる可能性があります。

事務作業がAI等にとって変わられるのは時間の問題であるため、この先はコンサルティングや経営者の悩みを解消するためのヒューマンスキルも重要な要素になってくることが予想されるからです。

営業マインド、とまでいかなくとも、お持ちの税務や数字を分析するスキルを活かして提案がしていける税理士を目指す必要はでてくるものと考えられます。

すぐに状況が一変することはないと思いますが、やはり先を見据えたキャリア形成をお考えになることをおすすめします。

ちなみに、現在、会計事務所業界のみならず、人材採用・転職業界でもAIの活用が進んでいます。
これまで求人サイトで自分で求人を探したり、エージェントに相談してあなたにマッチした求人先の紹介を受けるのが一般的だったかと思いますが、最近は膨大なデータとAIを活用してあなたの希望や潜在的な要望を叶えてくれるHUPRO(ヒュープロ)のようなサービスも出てきています。

AIを活用してスピーディー且つ適格な求人の提案を行ってくれ、スピーディーにマッチする転職先や転職先情報を探すことができる会計業界向けのサービスもあります。

求人を探すだけでなく、転職活動にかかる手間も大きく削減でき、忙しい方や子育て等でなかなか自分に時間がとれないという方が効率的に転職活動をするにも良いでしょう。

単にAIによるマッチングを行うだけでなく、メールや電話、Line等で会計事務所の転職に詳しいエージェントに転職相談することもできるため、相談したい人にもおすすめです。

こちらに限らず、まだまだこうしたサービスの精度がものすごく高いという話は聞きませんが、こうした方向性に世の中が動いていくことは間違いないかと想定されます。

なお、具体的に転職を考えているという方は以下の記事で転職サイトやエージェントについてまとめておりますので、ご参考ください。

税理士の転職サイト・エージェントを紹介!

会計事務所や税理士の転職市場を知るのに役立つ記事

当サイトでは会計事務所や税理士の転職市場に関する情報を多数配信しておりますので、興味のある方は他の記事もご参照ください。

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樋口 智大株式会社インテグラルベース 代表取締役
公認会計士・税理士・経理などの士業・管理部門の人材紹介を行う株式会社レックスアドバイザーズで勤務し、転職エージェントや会計専門メディアの事業の立ち上げを経験。その後、株式会社インテグラルベース(厚生労働省特定募集情報等提供事業者51-募-000806)を創業。現在は転職・採用・人事に係わるコンサルティングや求人サイトの運営を行っています。 士業JOBでは、これまで培った人脈と10年弱に及ぶ転職や採用に関する業務経験・実績を活かして転職に役立つ情報の配信を行っている他、多数の人材紹介会社とも協業し、最新の情報をブラッシュアップしながら配信を行っています。また、行政書士として事務所を開設しており、自身も士業として活動しております。 執筆者・監修者・編集者情報へ